マライア・キャリーがどん底から復活、新たなマスターピース『コーション』に迫る

マライア・キャリーの最新アーティスト写真

マライア・キャリーにとって4年ぶりとなる最新アルバム『コーション』が、全米中で絶賛されている。数多くの大ヒット曲で知られる歌姫の最新モードとは。先月アップした「マライア・キャリーを今こそ聴くべき3つの理由」に引き続き、音楽ライターの村上ひさし氏に解説してもらった。

スクリレックスや若き才能たちと切り拓いた新境地

誰もが圧倒された4年ぶりの来日公演。ここまで本気で歌だけで勝負してくれるとは想像していなかったファンも多かったんじゃないかと思う。ひと足先に訪れたアジア各国での評判もすこぶる高かった今回のツアー。“今でも歌える”どころか、”とことん本気で歌と向き合った”マライア・キャリーの凄みというのを知らしめてくれた。いわゆるお姫様ごっこ的なパフォーマンスは封印。ダンスやヴィジュアルは全て周囲に任せて、自身はひたすらマイクを握りしめ、熱唱を繰り広げた。これぞ誰もが待ち望んでいたマライア・キャリーの姿ではなかっただろうか。

そのジャパン・ツアーでも披露してくれた新曲「ウィズ・ユー」「ザ・ディスタンス feat. タイ・ダラー・サイン」、そして先行トラックとして公表された「GTFO」あたりで薄々気づいていた人もいたはずだ。4年ぶりのニュー・アルバム『コーション』には、これまでとは異なるスウィートでドリーミーなNEWマライア・キャリーが提示されている。



「GTFO」公表の時点で、エレクトロニック・ダンス・ミュージック界の鬼才ポーター・ロビンソンの「グッバイ・トゥ・ア・ワールド」がサンプリングされていると判明。EDMシーン界隈は大いに色めき立った。が、さらにサプライズだったのが、スクリレックスの参加である。「ザ・ディスタンス feat. タイ・ダラー・サイン」と、日本盤のみボーナス収録の「ランウェイ」(日本人ラッパーのKOHHが参加したヴァージョンも話題に)の2曲にソングライター&プロデューサーとして参加。一緒に前者に関わったプー・ベアからの紹介だったという。スクリレックス、プー・ベアといえば、ジャスティン・ビーバーの大ヒット・アルバム『パーパス』を手がけたヒットの達人たち。とはいえ、彼女が望んだのは爽やかなトロピカル・チューンではなく、メランコリックでドリーミーな別世界。蛍が飛び交うかのような幻想的なトラックの上を、彼女のウィスパー・ヴォイスが自在に駆け巡る。



新しい才能、異なるジャンルの人材登用には以前から積極的だったマライア。今回もスクリレックのみならず、多くのクリエイターたちとコラボを果たしている。初期プリンスの再来と囁かれるデイヴ・ハインズことブラッド・オレンジ(「ギヴィング・ミー・ライフ feat. スリック・リック&ブラッド・オレンジ」)、ビヨンセ&ジェイ・Z夫妻のザ・カーターズやエミネムの「ナイス・ガイ feat. ジェシー・レイエズ」(最新作『カミカゼ』収録)を手がけたノルウェー人プロデューサーのフレッド・ポールや、10代でジェイ・Zに見初められた女性プロデューサーのワンダガール(共に「ワン・モー・ゲン」)、リル・ベイビーとのコラボ・ヒット「ドロップ・トゥ・ハード」で知られる新進ラッパーのガンナ(「ステイ・ロング・ラヴ・ユー feat. ガンナ」)など、若き才能がズラリ並ぶ。

その一方で、ベテラン勢からもやっと念願叶ってコラボが実現したティンバランド(「エイス・グレイド」)、ジェイ・Zやコモンを手がけるNo I.D.(「コーション」)、朋友ジャーメイン・デュプリ(「ア・ノー・ノー」)らが駆けつけ、話題性にも事欠かない。とはいえ、彼らの手に委ねようというわけではなく、主導権を握るのは彼女である。というのは統一感あるサウンドを耳にすれば一聴瞭然だ。あくまでもマライアのヴィジョンに則ったソニック・ワールドの具現化が本作のテーマなのである。

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