スティーヴィー・ワンダーの名曲を彩った巨大シンセサイザーの物語

「私が(TONTOに)夢中になった理由は、頭の中にアイデアがあって、そのアイデアをみんなに聴かせたかったからだ」と、A&Eで放送されたドキュメンタリーでワンダーは言っていた。60年代後期から70年代後期まで10年以上の長い期間、TONTOは革新的なサウンドを数多く作った。

TONTOの恩恵に与ったアーティストには、アイズレー・ブラザーズ、ミニー・リパートン、ジョアン・ベズ、ドゥービー・ブラザーズ、クインシー・ジョーンズ、ランディ・ニューマン、ボビー・ウォーマック、ウェザー・リポート、ギル・スコット=ヘロン、デイヴ・メイソン、スティーヴン・スティルズ、リトル・フィート、ジェイムス・テイラー、ダイアナ・ロス、ハリー・ネルソンがいる。



着想から半世紀経った今、再びTONTOが表舞台に戻ってきている。TONTOは11月14日から1週間に渡って開催されるトリビュート・イベントのために4年間の修理を終えたばかりだ。今後TONTOはカナダのアルバータ州カルガリーにあるナショナル・ミュージック・センター(NMC)のスタジオ・ベルが新居となり、同センターが所有する2000を超えるアーチファクト、楽器、音楽テクノロジーを使用した機材コレクションの中で最も貴重な逸品となる。

セシルのパートナーのボブ・マーゴーレフがペヨーテでトリップしている最中に名前を決めたTONTO’s Expanding Head Bandのアルバム『Zero Time(原題)』は、1971年にリリースされたときにエレクトロニカの大躍進を告げる作品となった。「LSDをやって、自分の気力で心臓を止められることに気付くような感じ……」と、1971年8月5日のローリングストーン誌にティモシー・クローズが記している。

シンセサイザーのMoogとARPを、ロシア人コンポーザーとジミ・ヘンドリクスのギター・テックから得た多岐にわたるカスタム・モジュールと組み合わせたのはセシルのTONTOが最初で、これがヴァーチャルなアナログ・オーケストラとなったのである。当時は世界で最先端のシンセサイザーであり、最も大きなシンセでもあった。高さ180cmの円形の機材で、直径7.5メートルまで拡張でき、重さは1トンあった。「あれ以来、このシンセが自分のライフワークなんだ」とセシル。

元英国空軍のレーダー技師だったセシルは、退役後BBCラジオの主任ベーシストを務め、ジンジャー・ベイカー、グラハム・ボンド、ジャック・ブルース、ロング・ジョン・バルドリー、チャーリー・ワッツなどが在籍したイギリスの初期のブルースバンドで定期的にベースギターをプレイしていた。彼が初めてシンセサイザーと遭遇したのは1968年のアメリカで、マーゴーレフと出会ったことがきっかけだった。

Translated by Miki Nakayama

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