The 1975の傑作ニューアルバム、『ネット上の人間関係についての簡単な調査』の背景に迫る

10月にロサンゼルスで撮影されたThe 1975のマシュー・ヒーリー(Photograph by G L Askew II. Grooming by Nicole Del Rio.)

バンド史上もっともワイルドなアルバムを仕上げたUK発ポップバンド=The 1975だが、まずはマシュー・ヒーリーが健康を取り戻さなければならなかった。

2017年6月1日、The 1975は満員御礼のマディソン・スクエア・ガーデンでライブを行った。それは、2016年に発表したセカンドフルアルバム『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』で全米でもブレイクを果たしたUKポップの扇動家と呼ぶにふさわしいバンドにとって記念すべき瞬間だった。「ステージに出る直前に、マディソン・スクエア・ガーデンでライブをするマイケル・ジャクソンの写真が目に入るんだ。バンドのヴォーカル兼ギタリストで29歳のマシュー・ヒーリーは言った。「信じられないほど、クレイジーだ」

でも本当のことを言うと、ヒーリーはその夜のことをあまり覚えていないそうだ。「不思議な時間だった」ヒーリーは加えた。「まあ、そのころはまだドラッグをやりまくってたから」

2000年初頭にヒーリーは、マンチェスター近郊の中学時代からの友人であったドラマーのジョージ・ダニエル、ベーシストのロス・マクドナルド、リードギタリストのアダム・ハンとともにThe 1975を結成した。彼らは何年もの間、めくるめくウィットに富んだ歌詞と大胆でキャッチーなメロディーによってロック界のスターにのし上がろうとする夢をあざけりながらも、その理想に全力投球した。『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』は画期的だった。「おれたちは、2009年にはマンチェスター出身の最高のエモバンドだったけど、2015年には最低のポップバンドだった」英国の著名なテレビ俳優を両親に持つヒーリーは言う。「でも、そんなことはどうでもよかった」

バンドの知名度が上がる一方、ヒーリーは鎮静剤や抗不安薬などに溺れていった。2017年の夏には、ヒーリーは日常的にヘロインを吸うようになっていた。「べつにそこまでパーティーに明け暮れていたわけじゃない」とヒーリーは言う。「1万人とつながることとホテルの部屋でひとりきりになることの極端さが問題だったんだ。大勢の人々の承認と本物の孤独。ドラッグがあるとそれに対処しやすかった」

ヒーリーはため息をついた。「自分でもよくわからない。でも、頭はいつも回転してた。頭の良し悪しはさておき、ただ回転の速度だけは速かった」



ニューアルバム『ネット上の人間関係についての簡単な調査』の制作に向けて、手遅れになる前に数々の習慣と手を切らなくてはいけないことにヒーリーは気づいた。新しいアルバムに取り組みはじめるとすぐに、ヒーリーはカリブ海のバルバドスにあるリハビリ施設に入り、6週間におよぶ集中的な認知行動療法を受けた。

訓練された馬を使うセラピーをはじめ、そこでの時間はヒーリーに自らの人生について考える機会——それはぜひとも必要なものだった——を与えてくれた。「おれはひとりだった。もちろん、医師や看護師はいたけど、ほとんどは宮殿みたいなベッドルームでひとりきりだった。たくさん本を読んだし、いろんなことについて考えた」

それでも、クリーンになるための現実をあえて控えめに表現したりもしない。「身体的にはきつい。とくに[ベンゾジアピン系抗不安薬]を絶つのは大変だった」ヒーリーは続けた。「ほんとうにつらいんだ。施設に入った最初の週は『泳いで帰ろう。こんな場所はクソくらえ』って思った。でも乗り越えたよ。『人生にはもっと大事なことがある』って自分に言い聞かせたんだ。こんな風に考えられるほど恵まれたジャンキーってまれなんだ」

ヒーリーはさらに続けた。「多くの人は、リハビリ施設には入った段階ですべてを失っている。そういう人たちの人間関係は修復できないほど破綻しているんだ。おれは自分を愛してくれる人を怖がらせてしまった。それだけでも最悪なことだよ。だから、これ以上人生をめちゃくちゃにするのはよそうって思った」

昨年の12月にロンドンに帰国してから2日後、ヒーリーは自らがプロデュースするノー・ロームのアルバムを作るため、アビー・ロードへ向かった。「いつもハイになってた昔の家でじっとしてたくなかったんだ。わかるだろ? 何かポジティブなことをしたかった」1月には、ヒーリーとThe 1975のメンバーはオックスフォード郊外のスタジオに引きこもり、7カ月かけて『ネット上の人間関係についての簡単な調査』を完成させた。

激しく交差するサウンド、壮大なロックからダンスポップ、さらにはアコースティックなウィスパーにいたるまで、新作アルバムを聴いていると、『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』のサウンドが控えめにさえ思える。依存症にまつわる率直な告白と時事的なテーマを織り交ぜたヒーリーの歌詞にも同じことが言える。「正直になればなるほど、人々の心に響くみたい」とヒーリーは肩をすくめた。

たとえば、シングル曲「ラヴ・イット・イフ・ウィー・メイド・イット」では、ヒーリーは世界屈指の女性差別者の発言(「おれはビッチを誘惑しただけ、起訴なんて怖くない」)セレブリティの死(「リル・ピープ、安らかに眠れ、その詩は街中にあふれている」)、構造上の人種差別(「メラニンを売って黒人を窒息させる」)などについて、必死に嘆願するように繰り返し歌っている。「おれは怒っていて、少し混乱していた。はけ口を求めていたんだ」ヒーリーは言った。「歌詞のせいで、ラジオで流すときは編集しないといけない。でも、歌詞の一部はアメリカの現職大統領の発言なんだ」



2曲目の「ギヴ・ユアセルフ・ア・トライ」では、年齢を重ねることで利口になっているのかもしれないが、本当は自分が「ミレニアル世代のベビーブーマーのひとり」に過ぎないという真実を歌っている。実際、ベビーブーマーのアイコン的存在であるミック・ジャガーとは近年親交を結んでいる(2013年にThe 1975はハイド・パークにてザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトを務めた)。「ミックは若者文化を生き続けている」ヒーリーは言った。「それに本当に博識なんだ。ミックとチャットしたり、メールしたりするのはすごいことだよ。その度にお菓子屋さんにいる子どもみたいな気分になる。本物のミック・ジャガーだ! ってね」

ヒーリーはロサンゼルスにある自宅兼スタジオから電話でのインタビューに応じた。インタビュー中はサンセット大通りの「本当に美しい」風景を眺めているのだ。「ここはまさにハリウッド。人々が思い描く通りのハリウッドなんだ。おれたちの多くはここで暮らしている」ヒーリーは言った。

新アルバムのツアーに向けて準備をはじめる間も、The 1975は2019年6月リリース予定の次回作『Notes on a Conditional Form』に着手している。「『Notes』はUKの夜をテーマにした作品なんだ」通りや墓の名前を引用しながらヒーリーは言った。「人生のほとんどをワゴン車や車で過ごしてきた。マクドナルドに行きたくないのに、マクドナルドに止まりながらね。そのころを思い出させてくれるアルバムを作りたかった」

それだけではない。ヒーリーはマリファナより強力なドラッグを使用せずに1年を乗り切ったことに慎重でありながらも誇らしさを感じている。「簡単なことじゃないよ」ヒーリーは言った。「出来ない人にどうこう言うつもりはないけど、せめて努力しないと。そうしないと、あまりに悲惨な結果が待っている」



A Brief Inquiry into Online Relationships

The 1975
『ネット上の人間関係についての簡単な調査』
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Translated by Shoko Natori

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