ジョルジャ・スミスも寵愛する鍵盤奏者、アマネ・スガナミが語るマイシャとUKジャズの裏側

現在、ジャズに留まらない活動をしている彼は、この頃から音楽性に変化が出てきたという。アマネ・スガナミのひな型が出来上がっていったのは、この多感な時期だった。

「高校でキーボードにハマり始めたんです。シンセやピアノだけではなくて、いろんなキーボードにもっと興味を持つようになって、新しいテクスチャーを生み出すことに面白さを見出すようになりましたリスナーとしても、基本的にはジャズを聴いていたけど、ダフト・パンクを初めて聴いてハマったのが高校生のころ。彼らを発見したことは、僕の人生を変えたと言ってもいいと思います。

僕はそれまでエレクトロニック・ミュージックをほとんど聴いたことがなかった。でも、ダフト・パンクを聴いたときに、うまく説明できないけど、すっごくクールだと思ったんですよね。彼らの魅力は、エレクトロ、もしくはダンス・ミュージックなんだけど、その音楽がしっかりとした“曲”でもあるということ。そこから、エレクトロをたくさん聴くようになったんです」


アマネ・スガナミがAmane名義で発表した、2015年のEP『Lost Weekend』はエレクトロニックなアプローチが光る作品。1曲目には盟友のジェイミー・アイザックが参加。

「あと、15歳~16歳くらいでビョークも聴くようになりましたね。僕は彼女の音楽のような音楽をそれまで聴いたことがなかった。すごくエモーショナルで、全てのアルバムがそれぞれ違っていて、どれも新鮮だというのが魅力的で。歌詞や曲構成も毎回新しいし、1stアルバムから新作までの発展が楽しめるのもいいですよね」

エレクトロニック・ミュージックとビョークの洗礼を受けたというのは、実にヨーロッパらしいストーリーだ。では、ここで再びジャズに話を戻そう。彼はイギリスの名門、トリニティ・ラバン大学で高等音楽教育を受けたジャズミュージシャンだ。UKシーンで注目を集めている、サックス奏者のヌビア・ガルシアもここの卒業生。日本からはその実態が見えづらいない、トリニティ・ラバン大学についても少し語ってもらった。

「トリニティ・ラバンは音楽大学みたいなもので、パーカッションとか楽器に特化した学習もできるし、ジャズのようなジャンルの科もあって。僕はそこで4年間ジャズ科に在籍して、ジャズの歴史、ハーモニー、アレンジ、アンサンブルなどを学びました。グループレッスンと個人レッスンの両方で学ぶのがこの学校のスタイルでしたね。学校は(ロンドン南東部の)グリニッジにあって、現地では結構知られているんですよ」


マイシャに参加するヌビア・ガルシアは、「女性版カマシ・ワシントン」とも称されるサックス奏者。

「あと、トリニティには、UKのジャズシーンでは結構有名な先生がいるんです。僕のメインの講師はサイモン・パーセル先生(※)。彼は本当に素晴らしい方で、レッスンの説明がすごく上手かった。知識も豊富だし、もっと音楽を学びたいと背中を押してくれたのがパーセル先生でしたね」
※80年代から活動するイギリスのジャズ・ピアニスト。ケニー・ウィーラーやジュリアン・シーゲルなどと共演。キース・ジャレットやジョン・テイラーなど、ECMなどに代表されるヨーロッパのコンテンポラリー・ジャズ系のスタイルで知られる。

彼はそんな名門校で、UKジャズシーンのミュージシャンに師事を仰ぎつつ、どんなことを学んでいたのだろうか。

「ジョン・コルトレーンやハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィス、チック・コリアなど60年代半ばのジャズですね。あとは高校の頃と同様に、エレクトロニック・ミュージックもたくさん聴いていました。大学にいるあいだに、自分が主に聴く音楽の方向性が2つに定まっていったと思います。エレクトロの扉を開いてくれたのがダフト・パンクだとしたら、ジャズの扉を開いてくれたのはハービー・ハンコック。初めて聴いたのはたしか15歳のときで、いろいろ薦められた音楽のなかにハービーのデビューアルバムがあって。その中の『ドリフティン』っていう曲に惹かれて、ずっと聴いていました。自分がピアニストとして、特に研究したのはハービー、バド・パウエル、チック・コリア、セロニアス・モンク。大学で一緒に勉強していた仲間たちとよく演奏していました。

それらとは別に、よく聴いていたのがマウント・キンビーやフライング・ロータス。フライング・ロータスがヒップホップへの扉を開いてくれたんです。それに彼の音楽からは、親戚なだけあって、アリス・コルトレーンの要素が感じられるのもいいですね。マウント・キンビーやボノボの魅力は、エレクトロニック・ミュージックでありながらも生演奏が取り込まれているところ。そこからすごくインスパイアされました」

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