スガナミはその後、ジョルジャ・スミスやジェイミー・アイザックといったR&B/ネオソウルを通過したイギリス人アーティストに起用され、この二人とは曲も共作している。となれば、アメリカのブラックミュージックも体得しているはずだ。
「エリカ・バドゥ、ローリン・ヒル、ディアンジェロは好きですね。アルバムも買っていたし、みんな素晴らしいミュージシャンだと思う。特にローリン・ヒルのレコードを初めて聴いた時は衝撃的でした。でも、そのジャンルに関しては、特に影響を受けた鍵盤奏者はいないですね。それより、音楽全体のグルーヴを楽しんでいます。
ジョルジャとは、僕が彼女のマネージャーと知り合いだったのがきっかけ。ある日メッセージが届いて、ギターを演奏できないか訊かれたんです。僕は昔、ギターもよく弾いていたので。その頃は忙しかったし、オファーを断ろうか迷ったんですけど、彼女の曲を聴いてみたらすごく良かったので、それで引き受けることにしました。そこから一緒に曲を作るようになり、(ジョルジャと一緒に)サマーソニックでも演奏しました」
VIDEO スガナミも参加した、ジョルジャ・スミスによるNPR「Tiny Desk Concert」でのパフォーマンス動画。 「ジェイミー・アイザックとは、もともと一緒の学校に通っていたんです。で、彼の最初のプロジェクトのギグのために、力になってくれないかと誘われて。そこから一緒に制作するようになり、彼の初期EP2枚と1stアルバムに携わっています」
さらに彼は、ブルーノ・マーズのライヴバンドに参加したこともあるという。
「それに関しては、ブッキングエージェンシーからいきなり連絡があって。どうして僕に声がかかったのか、今でもわからないんですよね(笑)。だから、本当にクレイジーな経験でした。アリーナで演奏したことなんて、それまでなかったから。帯同したのは北米ツアーのみだったから、日本には行けなかったんですけどね」
VIDEO ジェイミー・アイザックによる「Red Bull Music Session」でのパフォーマンス動画。ドラムを演奏しているのは、マイシャのジェイク・ロング。 最後に、スガナミが参加しているマイシャの話に移ろう。ヌビア・ガルシアやUKジャズの若手ミュージシャンが集まり、スピリチュアル・ジャズやアフロビートの要素を融合したサウンドを奏でるこのバンドは、ジャイルス・ピーターソンが運営するブラウンズウッドからアルバム・デビューを飾ったばかりだ。まず、このバンドの成り立ちから語ってもらおう。
「トゥーム・ディラン(Ba)はもともと友人で、何年も一緒に演奏していたんですよね。あと、バンドリーダーのジェイク・ロング(Dr)とはロンドンで知り合ったんですけど、大学も一緒だったから、気づいたら同じプロジェクトにいくつも参加していたんです。ティム・ドイル(Per)ともギグで仲良くなって、シャーリー・テテー(Gt)はずっと後に出会ったんだけど……どうやって知り合ったんだっけ。友人の友人とかだったかな」
VIDEO 「実はマイシャって、僕がメンバーになる前から結成されていて。彼らが最初のギグをやる1週間前にジェイクから電話がかかってきて、それで演奏することになったんです。そのギグの演奏は今もオンラインで聴くことができるけど、僕が四苦八苦してるのが聴こえてきて面白いと思いますよ(笑)。リハーサルも1回だけだったし、時間がなかったから大変でした」
昨今のUKジャズを語るうえで、重要なキーワードがいくつかある。例えば、トゥモローズ・ウォーリアーズ。これはベース奏者のギャリー・クロスビーが運営している教育機関で、ここからシャバカ・ハッチングスなど、UKカリビアンやアフリカンを中心に多くのミュージシャンを輩出している。もう一つがJazz Re:freshed。このイベントが、UKのハイブリッドなジャズシーンの形成に大きく貢献したと言われている。
「僕自身はトゥモローズ・ウォーリアーズと関わったことがなくて。実は、結構後になるまで知らなかったんですよ。もちろん、素晴らしいミュージシャンがたくさん関わっていることは知ってますけどね。Jazz Re:freshedは何年も続いているイベントだし、シーンはみんな繋がっているから、その縁で何度か演奏したことがありますよ。その流れで、マイシャのEP(2016年作『Welcome To A New Welcome』)も彼らのレーベルからリリースしています。そこでのセッションでは、これといった曲を演奏するというよりも、即興のほうが多いかな。たまに誰かが有名な曲のベースラインを弾き始めたりすると、そこから盛り上がってその曲を演奏し始めたりもしますけどね」
VIDEO マイシャが『We Out Here』に提供した「Inside the Acorn」。同作ではシャバカ・ハッチングスやヌビア・ガルシアがリーダー/奏者として複数の楽曲に参加。シャバカは音楽ディレクターも務めている。 「僕らがよくライヴをしていたのは、トータル・リフレッシュメント・センター(TRC)。以前は、イーストロンドンにある教会でやっていた、チャーチ・オブ・サウンドっていうイベントでもよくプレイしていました。まあ、どこかに活動拠点があるというよりは、ギグの機会があればどこでも演奏するという感じですね」
ちなみにジェイク・ロングは、マイシャの日本公式インタビューで「たとえばノース・イースト・ロンドンにはTRCがあるし、ウェスト・ロンドンにもJazz Re:freshedがある。だからサウス・ロンドンというひとつの地域だけに狭めて語るべきではないと思う」と語っている。その言葉と、スガナミの発言を照らし合わせると、シーンの地図がもう少しクリアになるかもしれない。
そして最後に、マイシャの特徴でもあるアフロビートやカリビアン音楽のリズムに関しての経験についてスガナミに訊いてみたところ、「その影響を受けているのはマイシャの他のメンバーで、僕はまだ勉強しているところなんです」と返ってきた。
現行のロンドン・ジャズで中心を担うのは、20代半ばの若手ミュージシャンたち。日本でいえば石若駿や井上銘と同世代で、ロバート・グラスパーがソロデビューを飾ったのは26歳の時だった。そう考えると、いかに若いシーンなのかよくわかるだろう。スガナミの「まだ勉強している」という言葉は、このマイシャらが属するシーンが、まだ動き始めたばかりであることを端的に示すものかもしれない。
<リリース情報>
マイシャ 『There is a Place』 発売中
レーベル:Brownswood Recordings / BEAT RECORDS
国内盤CD:¥2,400 +tax
01. Osiris
02. Azure
03. Eaglehurst / The Palace
04. Kaa
05. There Is A Place
06. Inside the Acorn(国内盤ボーナストラック)
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