ホールジー、初来日で体験した最悪のライブから学んだこと

ー次のアルバムにはいつ取りかかるんですか?

ホールジー:この冬に曲作りを始める予定。次のアルバムでは、何故私が音楽をやるのかっていうところに向き合いたいと思ってる。最初に私が有名になったとき、私がやったこと、私が言ったことに対して怒りだす人たちがいたの。それでちょっと怖くなっちゃって、もうやりたくないってなったこともあった。自分がやってること、自分が信じてることに対して他人が私のことを嫌うなんてつらいじゃない。でもそんなの気にしないってなったんだけどね。だから新しいアルバムを作って、人をイライラさせたいのよ。それって、私がパンクという音楽を聴いて育ったことにつながる部分もある。どこに行っても、傷いたり怒ったりして音楽を必要としてる人がいるでしょ。だから、私はそこの原点に立ち返りたいと思ってるの。それが日本に来る理由の一つでもあるし。

日本に来ると、より良いヴァージョンの自分になれるから。より優しくなれるし、感謝の気持ちも忘れなくなるし、大人しくなるし、穏やかになるし、もっと物事をきちんと考えることができるの。東京は特別な場所だと思うわ。東京に限らず日本にはアートに対する感謝の気持ち、アートに対する誠実な気持ちがまだ残ってると思う。アメリカは歴史の浅い国だから、カルチャーに対する認識が薄い。だからアメリカ人は何ごとに対してもリスペクトがないのよ。何でも利用するし、アート、音楽、カルチャーに関しても、常に新しいものが出てきて、消費してばかりだから、感謝の気持ちとか、積み上げてくことが少ないんだと思う。ハリウッドは多くのメディアにとって中心地にはなってるけど、アーティストにとっては良い環境だとは言えないの。

ー音楽って、アートであると同時にビジネスでもありますからね。そのバランスってスゴく難しいんですが、ホールジーはそこを上手くバランスをとってやっていると思います。

ホールジー:そうできるようトライはしてるわ。私は本物のアーティストになりたいの。だから自分に正直でいようと心がけてる。でもミュージシャンになるのって、政治家になるような感じなの。どちらも特定の人たちの集団を代表して選ばれる存在でしょ。私はパンクでヤバい女の子たちの代表だったり、精神的に病んでるけどそのことを包み隠さず話せる子たちの代表だったり、都会で違う人種の親の間に生まれた人たちの代表だったり。そういう人たちを代表する声になるわけだから、私はできるだけ誠実でいたいの。頭のいい人だったら、私が誠実でないことを言ったらすぐに見破るし。みんな私のことを何でも見てるから。私がボーイフレンドと別れたときも、みんなにいろいろTwitterで書かれたの。誰にも言ってないのに何でわかったの?って思ったくらい。デジタル世代は何でも見てる。でもいいことだとも思うの。誠実じゃなくて、いろいろ隠したいようなアーティストには大変だろうけど、私は誠実だから大丈夫。

ー最近出した新曲の「Without Me」にしても誠実だな曲だと思いますし、最初に出したヴァーティカル・ビデオでもスゴくシンプルにありのままの自分を出していますね。

ホールジー:そうなの。コンセプトもなければ、派手な衣装もない。通常のミュージック・ビデオも作ったんだけど、大変だったわ。今までのビデオではキャラクターを演じていれば良かったんだけど、今回は私自身をさらけ出したわけだから。多くのアーティストにとっては、派手なキャラクターを演じる方がチャレンジになるんだけど、私にとっては最もシンプルなことをやる方が最大のチャレンジになる。みんなが期待するのはドラマだったり衝撃だったりするでしょ。この曲は2ndと3rdのアルバムの間に出す新曲だから、ここでリアルな私を見せるのもいいなと思ったの。この曲はおそらく私の中で最も誠実な曲になると思う。私がやってるのはアートだから。だけどそのアートも感情が伴ったものだから大変なの。



曲を出した後、歌を作ってたときと同じ気持ちになれないこともある。だから自分の言ったことに対してはスゴく肯定的にならないと続かないのよ。それが間違ってるときもあるしね。「恋をしてるの。私たち一生愛し合うの」って歌った後に別れてしまったら、世界中の笑い者になってしまう。あるいは落ち込んでるときに、自分のことが嫌いな曲を出したら、「大丈夫?」って心配されてしまう。つまり、自分が作ったものは永遠に跳ね返ってくるもの。みんながそれに対していろんな意見も持ってる。だから私の音楽はメタファーを通しての誠実さを出そうと思ってる。失恋したら『ロミオとジュリエット』を引用するし、自分がアイデンティティで苦しんでることを世界に伝えたかったら、Badlandsという未来の社会を持ち出すの。ストレートに表現はしない。必ずメタファーやキャラクター、映画からの引用を持ち出して、聴き手に判断を委ねてるの。

ー「Without Me」はコンセプトとか型にハマらない分、自分の中の何かに突き動かされて書いたような曲ですね。

ホールジー:確かにそこが最も重要なのかもしれない。私は傷ついたのよ。それで心の痛みを取り出して、この曲を書いた。でもアルバムのタイミングでもなかったし、この曲はどうしたらいいの?ってなって。そしたらスタッフから「出していいんだよ。あなたはアーティストなんだから」って言われて。それで出したら、スゴく多くの人から「全く同じ気持ちよ」って言われた。私は神様に感謝したわ。自分が感じたことがアートになるんだから。それに、これはお金のためにやってることじゃないから。でも時々わからなくもなるの。自分がフェイクに思えたりもするし。音楽業界にはルールが多すぎて、「この曲は出しちゃいけない。アルバムのこともあるし、プロモーションのこともあるから」って言われがちなの。だけど私はルールなんて大嫌いだから、この曲を出して、いろんなルールを破ってしまったわ。ラジオでかからなくても、プロモーションができなくてもかまわないの。

この曲を出した理由は誠実な気持ちだし、私がファンに何かを施してあげようと思ってやってることじゃないから。私は自分のことを伝えたかったからこの曲を出したの。アートっていうのは元々自分のことを人に伝える行為でしょ。この曲は次のアルバムにつながる扉を開いたと思うわ。「自分のやりたいことは何でもできるんだって覚えておいて。あなたはアーティストなんだから。ルールは破るためにあるのよ」。私はそう言われた気がする。自分のキャリア、自分のアートのために一生懸命やってきたら、今度はそれを失うのが怖くなる。それでもルールは破らないといけないものなの。何故なら、そこから新しいものが始まるわけだから。次のアルバムでは私は言いたいことをすべて言おうと思ってる。しかも何も恐れずできると思うの。ルールを破って、みんなをイライラさせる。結局、それが私のやりたいことなのかもしれないわ。



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