アリアナ・グランデが憧れの「ヒップホップ流」新曲発表を実践、初のビルボード1位を獲得

アリアナ・グランデの新曲「サンキュー、ネクスト」は、従来のホップスターにありがちなように、綿密に計画してアルバムをリリースしたのではない。「ラッパーみたいに作品をリリースしたい」と、ヒップホップ流の矢継ぎ早の新曲リリースの方法を今後はやっていきたいという。

「サンキュー、ネクスト」は誰かをディスった曲ではないが、プロモーション上ではそのような位置づけだ。ケンドリック・ラマーの「コントロール」やドレイクの「バック・トゥ・バック」、あるいはプッシャTの「Story of Adidon」同様、アリアナ・グランデの最新シングルも、リリースされるやたちまち話題騒然となった。グランデの過去の男性遍歴――ビッグ・ショーンやマック・ミラー、ピート・デヴィッドソン――をつづった歌は、まるで熱病かなにかのように、これまで見たこともないような反響を呼んだ。ビルボード誌最新号の巻頭特集で本人が語ったところでは、「サンキュー・ネクスト」のリリースに関しては、矢継ぎ早に曲を発表するヒップホップ流のやり方に影響を受けたのだそうだ。

「ずっと前からやりたかったの――ラッパーになりたいわけじゃないわよ、でも、ラッパーみたいな感じで曲を出したいな、って。音楽業界にはある種の決まり事があって、男性シンガーと違って、女性シンガーはそれに縛られているような気がしてたの」とグランデ。「シングルを出す前に予告用の動画を作って、先行予約をやって、ラジオで話題づくりしてからミュージックビデオを出す。それに合わせて早割discountもやらなきゃ、みたいな。『私はファンと話したいだけなのに。男の子たちみたいに、歌って、曲を作って、すぐリリースしたいのに。彼らは許されるのに、どうして私はダメなの?』って感じ。だから、今回は自分の思うままにやってみたの。私らしくね。これからもそうするつもりよ」

彼女の賭けは成功した。「サンキュー、ネクスト」でグランデは初めて、ビルボード・シングルチャートNo.1に輝いた。リリース後24時間で、YouTubeでの閲覧件数は過去最高の5540万件を達成。グランデは、ポップミュージックでは定番のきっちり計算された過剰スケジュール型アルバムリリース戦略を見事に覆し、代わりに、ヒップホップを(部分的にではあるが)アメリカでもっとも親しまれるジャンルに押し上げた、多産型リリース方式を推し進めた。

綿密に契約されたマーケティングスケジュールにとらわれず、思い立ったらすぐリリースすれば、2018年は思いっきり楽しめるし、世間の注目も集められるはず。という彼女の狙いは、正しい。だが、ラッパーが立て続けに制作を続ける根本的な理由は、どこからともなくポッと生まれたわけではない。従来の音楽構造に入り込むことができず、人気ラジオ局や大手レーベルといった既存の販売経路に曲を売り込むことができなかった彼らは、代替案として山のような音楽を作るほかなかったのだ。

「(ポップ系ラジオでオンエアされるためには)曲の構造もひとつの要因です」と語るのは、Gイージーのマネージャーを務めるマット・バウアーシュミット氏。今年5月、ローリングストーン誌とのインタビューで、上位40位のラジオ局がラップに手を焼いていることに関してこう語っていた。「ただおそらく、世の中のほとんどの場合がそうであるように、直感的な偏見があるのも事実だと思います。リスナーが黒人ラップに聞きなじみがないのは、ラジオが(黒人ラップの)オンエアをためらっているせいです」

この点アリアナは、おいしいどこ取りをした形だ。ペースをあげる音楽業界で名を挙げたラッパーたちから多大な影響を受け、ストリーミング時代の新常識に敏感に適応する一方、地球で最も人気のポップスターに与えられた武器もあますところなく駆使する。うまくいくのは当然だ。そしてこのDIY精神は、『サンキュー・ネクスト』と仮タイトルがつけられた彼女のニューアルバムにも受け継がれることだろう。

「いまだと思ったら、土曜日の夜でも曲をリリースする。リリースしなくて胸がモヤモヤしたら、また考えなおせばいい・・・人に言われたとおりにするのは好きじゃない。ポップスターの方程式に甘んじたくないの。これからは、自分のやり方でやっていく。アルバムを2枚いっぺんに出して、2枚分のアルバムでツアーしたくなったらそうするし、(2019年の)ツアー中に3枚目のアルバムを出したくなったら、そうするわ!」



Translated by Akiko Kato

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