テイラー・スウィフト『レピュテーション』自身グラミー史上最低評価、なぜ?

(Photo by Don Arnold/TAS18/Getty Images)

2017年から2018年にかけて最大の売り上げを記録したテイラー・スウィフトの『レピュテーション』は、デビュー作『テイラー・スウィフト』以来、もっともグラミー賞のノミネートが少ない作品に終わった。

テイラー・スウィフトの名声もここまで。とまでは言わなくとも、スウィフトの『レピュテーション』の時代は一つの区切りを迎えた。2017年11月の発売以来、スウィフトの6枚目のアルバムは昨年のポップミュージックというジャンルにおいてしかるべき支持を集めてきた。それなのに、奇妙にも、12月7日金曜日に発表されたグラミー賞ノミネート作品の一覧にスウィフトのアルバムおよびシングルは一つも含まれていなかった。最優秀ポップアルバム賞というカテゴリーを除いては。

この10年間にわたって、スウィフトはポップミュージックスターのなかでももっとも華やかな存在へと成長を遂げた。セカンドアルバム『フィアレス』がグラミー賞最優秀アルバム賞に輝いたとき、当時20歳だったスウィフトはこの賞の最年少受賞記録をも打ち立てたのだ。さらには、2016年に『1989』が2度目の最優秀アルバム賞を受賞した。

2017年の夏に下劣かつ保守的な衝撃作「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて」がリリースされて以来、『レピュテーション』はスウィフトにとってもっとも物議を醸したアルバムとなった。このシングル一つをとってもファンから評論家までもが強い感情を抱き、これまでの世間からの申し分ないイメージをこうもやすやすと覆してしまうスウィフトと彼女の大胆な新しいサウンドを賞賛する者もいれば、このライトなエレクトロクラッシュチューンを意味不明な音の混乱と表現する者もいた。

アルバムのリリース後、『レピュテーション』は徐々に人々の心をつかんでいった。アルバムは多くの人々から、スウィフトならではのポップな歌詞の世界観を犠牲にすることなくリスクを犯した、と評価された。暗闇、苦痛、漠然とした危険は結局のところ、スウィフトのキャリアとサウンドにとってプラスの要素になったのだ。リリースから1週間で『レピュテーション』は200万枚の売り上げを記録し、2017年最大のヒットアルバムとなった。

2018年、アルバムと収録シングルの勢いはそれほど振るわなかったにせよ、『レピュテーション』がその年最大のアルバムセールスを記録したことでスウィフトをもっともランキングの高いアーティストとして米ビルボードは評価した。アルバムに収録されている4枚目のシングル「デリケート」は遅咲きのヒットとなり、ビルボードのHot 100ランキングに1年近くにわたって止まり続け、のちにラジオでも爆発的な人気を博した。

たとえスウィフトの前作『1989』が瞬く間に人々の心をとらえたにせよ、『1989』の最優秀アルバム賞の受賞はケンドリック・ラマーの傑作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』との比較において物議を醸した。論争はグラミー賞と黒人アーティスト、さらにはラップ音楽との関係性にまで及び、こうした状況の板挟みになったビヨンセのアルバム『ビヨンセ』と『レモネード』はどちらもベックとアデルに敗れ、最優秀アルバム賞を逃している。今年のグラミー賞最優秀アルバム賞にノミネートされた8作品は、ケンドリック・ラマーのサウンドトラック『ブラックパンサー』、ドレイクの『スコーピオン』、カーディ・Bの『Invasion of Privacy』、H.E.Rの『H.E.R』、ポスト・マローンの『Beerbongs & Bentleys』、ジャネル・モネイの『Dirty Computer』といったヒップホップやR&B作品が顕著だ。そして、それに対抗するのが、現代のフォークミュージックの預言者ブランディ・カーライルの『By the Way, I Forgive You』とスウィフトのカントリーポップを彷彿とさせるケイシー・マスグレイヴズの『Golden Hour』だ。

その一方、ショーン・メンデス、ゼッド、レディー・ガガがいずれか、あるいは両方ノミネートされている最優秀楽曲賞と最優秀レコード賞の候補はよりポップなラインナップだ。最優秀ポップパフォーマンス賞から無視されたとしても、スウィフトの「デリケート」が食い込む余地はないのだ。

奇妙にも思えるかもしれないが、スウィフトがこうもノミネートを逃した理由として、アワードにふさわしいアルバムに対する考え方の変化があるのかもしれない。近年、かつてないほどラップやR&Bが最優秀アルバム賞にノミネートされている。絶大な人気を誇るポップアルバムがないことで、アウトキャストの『Speakerboxxx/The Love Below』にならって、ヒップホップアルバムがこうした賞に輝くチャンスが回ってきたのだ(ローリン・ヒルの『ミスエデュケーション』は1999年に最優秀アルバム賞を受賞したが、あくまでR&Bというカテゴリーにおいてである)。「グラミー賞のお気に入り」という存在に求められる素質は永遠に変わったのかもしれない。

Translated by Shoko Natori

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