ワン・ダイレクション脱退から3年、ゼインの2枚組超大作が描いた愛と不条理

では、この大作で彼はいったい何を企んだのか? そもそも『イカロス・フォールズ(イカロスの墜落)』とは、ギリシャ神話に登場する、太陽に近付き過ぎて命を落としてしまった少年イカロスのストーリーに因んだタイトルなのだが、彼はアルバムの前半を『イカロス』と、後半を『フォールズ』と命名。それぞれで恋愛のブライト・サイドとダーク・サイドを歌い、ポジティヴな側面のみならず不条理な側面も掘り下げることで、リアリティのある愛の在り方を提示している。つまり、愛を太陽と位置付けて、大いなる生命力とハピネスの源泉でありながら、計り知れないパワーを備えているがゆえに、ヘタをすれば自分に破滅をもたらす可能性をはらんでいるのだと、本作で論じているのだ。



よって『イカロス』では喜びや希望やパッションを、『フォールズ』では疑念や嫉妬心や裏切りをテーマに取り上げて、鮮烈に対比させている。ジェイムスに加えてMakeYouKnowLoveやソルトワイヴスといった若手チーム、或いは大御所のティンバランドなど新旧のコラボレーターたちは、そんなゼインの想いをすくい上げて、明暗のコントラストをプロダクションにも投影。トーンに統一感のあった『マインド・オブ・マイン』に比べると、今回は実に幅広いサウンド表現を包含しており、前者が軽やかな高揚感と浮遊感に溢れていることは、言うまでもないだろう。殊に「ゼア・ユー・アー」などは、高く高く空を昇っていくイカロスの姿を想起させる、アルバムの中でも最もハイな瞬間なのかもしれない。

そして後者は、ロックを自分流に消化してみたり(「サワー・ディーゼル」)、トロピカルハウスに接近したりしながら(ニッキー・ミナージュをフィーチャーした「ノー・キャンドル・ノー・ライト」)激しく振幅して、彼のヴォーカルから実に多彩な表情を引き出している。時に自然体で、時にシアトリカルで、時に抑制を効かせて、時にエモーションを解き放ち、時に甘く、時にデンジャラスな含みを仄めかして……。

シングルに比重が置かれるストリーミングが定着し、ただでさえフル・アルバム離れが進んでいる昨今、このようにして敢えて流れに逆らう大胆な試みに挑んだゼイン。ダブル・アルバムはアーティスト・エゴの産物だと呼ばれることがしばしばあり、実際、整合性に欠けているケースも少なくないわけだが、いずれも確かな存在意義を備えた、完成度の高い曲が並ぶ本作の場合、90分のヴォリュームは決して長くはない。むしろ全編を聴き終えた時には、なるほど、2枚作らなければならなかったのだなと納得できるはずだ。



〈リリース情報〉


ゼイン
『イカロス・フォールズ』
2018年リリース・シングル全6曲+日本限定ボーナストラック収録(全29曲)

配信:配信中
国内盤CD:2018年12月21日(金)全世界同時発売
全29曲(Disc1「イカロス」:14曲/Disc2「フォールズ」:15曲)
先着で購入者特典あり(ジャケット写真絵柄の特製ミニクリアファイル)
SICP5903-4 / 2,800円+税

試聴・アルバム購入リンク:
https://lnk.to/ZAYN_IcarusFallsRo

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