ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・アルバム」トップ50

9位 カート・ヴァイル『ボトル・イット・イン』
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フィラデルフィア出身、ロングヘアーがトレードマークの吟遊詩人による78分間に及ぶアルバムは、悪夢と夢心地のギタートーンを融合させてみせる。他愛のないむく犬の話(「Loading Zones」)には磨きがかかり、トリッピー感(「Bassackwards」)はさらにディープに、奇妙な内輪ネタ(「Skinny Mini」)は苦笑いを誘う。『ボトル・イット・イン』はヴァイル史上最もルーズでくだけたアルバムであり、ナッシュヴィルの土臭さを漂わせる「Rollin’ With the Flow」のように、時にはあからさまにおどけてみせる。一方で「One Trick Pony」やタイトル曲には、がんじがらめのソウルと形容すべきウォームなフィーリングが宿っている。Discogsで売りに出されているニール・ヤングの古いCDを除けば、2018年にこういったレコードに出会う機会はまずないだろう。

8位 レディ・ガガ&ブラッドリー・クーパー『アリー/スター誕生 サウンドトラック』
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2018年のポップスシーンを一言で形容するとすれば、「狂っていた」に尽きるだろう。「カリフォルニアに眠る黄金のように、私の魂の奥深くに封印されていた」という歌詞が示唆するように、レディ・ガガは70年代のソフトロックというルーツに立ち返ることで、アーティストとしての自身を再発見してみせた。自身で監督もこなしたロックスター役のブラッドリー・クーパーは、エディー・ヴェダー風のジャケットを着こなし、ジェイソン・イズベル作の「メイビー・イッツ・タイム」をエディ・ヴェダー風のダミ声で歌い上げる。ステファニー・ジャーマノッタ(ガガの本名)はキャリアを通してヴィジュアル面でのインパクトを重視してきたが、劇中でDeep Estefanのピアノバラードを歌う彼女の姿は、その最大の武器がモンスター級の歌声であることを改めて証明してみせた。

7位 プッシャ・T『Daytona』
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ラップ界屈指の頑固者であり、クオリティに徹底的にこだわることで知られるプッシャ・Tは、何年もかけて完璧なエスパドリーユを1足作り上げるイタリアの靴職人を思わせる。「俺の仕事が遅すぎるとツイートしてるやつら / 泣く子も黙る俺さまのやり方に口を出すな」全7曲21分間の傑作で、彼はそうラップしてみせる。事実、彼と兄のノー・マリスによるユニットであるクリプスが9年前に有終の美を飾るアルバムをリリースして以来、彼ら以上に自らの成功ぶりを堂々と祝福し、敵をコテンパンに叩きのめすことができるラッパーは登場していない(「Infared」では宿敵ドレイクを攻撃している)。機知とユーモアに富み、容赦ないパフォーマンスを聞かせる『Daytona』は、プッシャ・Tのソロとしては文句なしの最高傑作だ。ソウル、ロック、プログレのサンプルを徹底的にチョップしたビートのクオリティは、カニエが今年送り出したレコードの中でも群を抜いている。

Translated by Masaaki Yoshida

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