2018年の音楽業界を物語る5つの数字

4)  23億ドル(約2540億円):音楽業界におけるパワーの統合

2018年11月、ソニーは23億ドル(約2540億円)で、EMIミュージックパブリッシング(EMP)株の60%を取得した。それ以前に30%の株式を取得していたソニーは、カニエ・ウェスト、クイーン、ファレル・ウィリアムスらのメガヒットを含む200万曲以上の楽曲の権利を管理することとなる。EMP株の残り10%は、同年7月にソニーが、マイケル・ジャクソンの遺産管理財団から2億8750万ドル(約317億4100万円)で取得していた。

段階的な買収によりソニーは、世界第2位のレコード会社であるソニー・ミュージックエンタテインメントに加え、EMPと大手パブリッシャーのソニーATVを所有することとなった。結果として、ミュージック・ビジネス・ワールドワイド(MBW)が分析しているように、ソニーは世界最大の音楽パブリッシング連合体を手に入れたことになる。年間総売上高は13億ドル(約1435億円)を超え、系列のレコード会社は年間40億ドル(約4400億円)を稼ぎ出す。

世界最大の音楽著作権管理会社(パブリッシング&レコード)は、依然としてユニバーサルミュージックグループ(UMG)。同グループのパブリッシング会社(ユニバーサルミュージックパブリッシンググループ)の2018年の売上は、およそ10億ドル(約1100億円)、レコード会社も順調でおよそ60億ドル(約6620億円)の年間売上が見込まれる。

2018年、ユニバーサルとソニーによるレコード音楽ビジネスが、世界中の音楽ビジネス全ての年間売上の半分以上を占めることとなった。揺るぎない権力基盤であるが、UMGの親会社ヴィヴェンディが計画通り2019年末までにUMGの50%を外部の戦略パートナーへ売却したとすれば、そのパワーバランスも大きく崩れるだろう。

5) 0.00074ドル(約0.08円):“バリューギャップ”との戦いを諦めつつあるレコードレーベル

音楽ビジネスは今、失望へ向かっている。ユニバーサルミュージックグループの親会社ヴィヴェンディは、世界的な組織と共同名義で発行したオープンレターの中で、「EUの著作権指令第13条は、YouTubeをはじめとするユーザーアップロード型のサービスに“バリューギャップ”を解消する法的義務を負わせられないだろう」と指摘した。

“バリューギャップ”とは? 簡単に言えば、YouTubeから再生毎に支払われる金額と、SpotifyやApple Musicとの大きな金額差のことだ。

ロックバンド、クラッカーのフロントマンで音楽ビジネスのブレーンであるデヴィッド・ロウェリーが提供した、ある独立系中堅レコードレーベルの2017年のデータによると、YouTubeがレーベルに支払った再生1回あたりの平均額は0.00074ドル(約0.08円)だという。一方Spotify(無料版と有料版)は0.004ドル(約0.44円)で、Apple MusicはYouTubeの10倍以上の0.008ドル(約0.88円)だった。

音楽業界は、物議を呼んでいるEUの著作権司令(第13条)が間もなく施行され、より厳しい法律の下でYouTubeの支払い額が上がることを願っている。しかし結局、トップに君臨するのはグーグル/アルファベット傘下のプラットフォームのようだ。


著者:ティム・インガム
ミュージック・ビジネス・ワールドワイド(MWB)を2015年に創設し、パブリッシャーを務める。MWBではニュース、分析、仕事等の情報を提供しグローバルな産業に貢献している。現在、ローリングストーン誌にウィークリーベースでコラムも執筆中。

Translated by Smokva Tokyo

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