ローリングストーン誌が選ぶ「2018年聴くべき名盤」11選

6. ミドル・ブルー『ラブ・コーズ』

ドラマーのマイク・クラークは『スラスト』などのハービー・ハンコックのアルバムで70年代半ばの最高に心地よいグルーヴを刻んだが、今年彼は全く異なるタイプのジャズ・ファンクのプロジェクトを始めた。ニューヨーク出身の温かく目が覚めるような7人組バンドミドル・ブルーである。ヴィンテージなハービー・ハンコックのアルバムでは正確さとドライブがすべてであったがこのバンドでは粗さとゆるさの美学に焦点をあてていて、ファジーなギターや豪華なフェンダー・ローズ、ソウルフルなフルート、テンション高く絡み合う複数のサックスが自由に動けるようになっている。ギタリストでバンドリーダーの(もう少しいうと私の友達でもあり時々ローリングストーンでもお世話になっている)ブラッド・ファーバーマンの、ハッピーで一瞬で人の心をつかむようなテーマが、決まりごとのない一発録りのセッションにおいて完璧な土台としての役割を果たしているのだ。クラークは参加メンバーほとんどとかなりの年齢差があるがVIP的なポジションで参加しているのではない。彼もそこにいる他のみんなと同じように心からミドル・ブルー全員で良いものを作ろうとしているのが感じられる。



7. ヘドヴィグ・モレスタッド・トリオ『スメルズ・ファニー』

ほとんどのフュージョン・ギタリストは大仕事をすべく地味な装いでステージに立つが、このノルウェーのインストゥルメンタル・トリオのバンドのしびれるようなリーダー、ヘドヴィグ・モレスタッド・トーマセンはライブでは赤いスパンコールのカクテルドレスとヒールを装い、長いブロンドヘアを曲に合わせて振り回し、『ブロウ・バイ・ブロウ』時代のジェフ・ベックとマハヴィシュヌ・オーケストラのリーダー、ジョン・マクラフリンにデスメタル寄りのリフと気高いコルトレーンの即興を合わせたような演奏でバンドを率いている。2013年以来の彼らにとって6枚目のアルバムである『スメルズ・ファニー』は大西洋を渡るとすぐに一定の成功を収め、トーマセンとベーシストのエレン・ブレッケンとドラマーのアイヴァー・ロー・ビョーンスタッドは新たなチャンスを掴んだ。『ビースティ・ビースティ』は流れるようなノリとファジーで肉厚な旋律ですごく聞きやすい曲で、雨の日の哀歌『Jurášek』はニール・ヤングがジミ・ヘンドリックスの『チェロキー・ミスト』をプレイしたらどうなるかを再現したような曲だ。最後の『ルーシッドネス』ではトーマセンはブレッケンとビョーンスタッドの単調な嵐の中をハイピッチのサウンドと歓喜のスタッカートでピュアな光のように駆け抜けている。ヘドヴィグ・モレスタッド・トリオはライブでも音源でもその状況に合わす見事なセンスでアバンギャルドなギターアドベンチャーを生み出す。ぜひ構えずに聞いてほしい。


8. ナップ・アイズ『アイム・バッド・ナウ』

少しだけルー・リードにリチャード・トンプソンをかけ合わせたようなサウンドのナイジェル・チャップマンがフロントを務める、ノバスコシア出身のこのチャーミングなバンドは、今挙げた例からも想像がつくようにダラッとしたポーカーフェイス的なフォーク寄りのロックンロールのバンドである。この3枚目のLPに入っている曲はスローであったり、驚くほど軽快であったりとLPのタイトルにも反映されているように皮肉なユーモアのセンスが感じられる。アルバムのハイライトはチャップマンが20分のラーガとアメリカン・フォークソング聞きながら水辺を散歩しているのを歌った『フォロー・ミー・ダウン』で、「a little bit shorter, still a lot going on (少し短いけどいろんなことが起きている)」と彼は歌っている。



Translated by Masaaki Yoshida

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