マグパイ・サルート、ザ・バンドのカバーも飛び出した初来日公演のレポが到着

1月7日に恵比寿ザ・ガーデンホールで行われたマグパイ・サルートの来日公演の模様(Photo by Yoshika Horita)

ブラック・クロウズのリッチ・ロビンソンをはじめ元メンバーが集結した新バンド=ザ・マグパイ・サルートが、昨年発売したデビュー・アルバム『ハイ・ウォーター・ワン』を引っさげてジャパン・ツアーを開催中。ブラック・クロウズ時代から数えると14年ぶりの来日となった昨日の1月7日、恵比寿ザ・ガーデンホールで行われた東京初日公演のレポートをお届けする。

定刻19時を過ぎてほどなく、ステージ上に現れた6人。リッチ・ロビンソンはブラック・クロウズ時代同様、ステージ向かって右手にポジションを取りおもむろにギターを鳴らした。リッチの背後にはマット・ストローカム(key)、中央のジョン・ホッグ(vo)を挟んで反対側にはマーク・フォード(g)とスヴェン・パイピーン(b)、中央後方に構えるのはジョー・マギストロ(ds)といった布陣である。オープニングは、アルバム『High Water Ⅰ』からの「High Water」で、ジョンもギターを抱え、初っ端から計3本のギターが重なり合って観客の上に大きな波がかぶさるようにして溢れ出た。

「うわぁ!! これ、これ、これ、これを待っていたのだ!」。

リッチのソロ初期からすでに15年近く活動を共にしているジョーのドラムはほどよい重量感をもって全体を支える。派手ではないが、的確で気持ちがいい。「Mary The Gypsy」ではジョンとリッチがツイン・ヴォーカルをキメ、「For The Wind」ではリッチとマークのギターが熱いジャムを引っ張り、鍵盤がリズミカルに暴れる。このどうにも生々しく、隠し立ての出来ない、騒々しい人力ロックンロールを浴びながら、前日に取材したリッチの言葉を思い出していた。

「どんなバンドでも、ひとつのユニットとして何も考えずに“塊”で動くことができるようになる瞬間があるんだけど、去年の夏の終わり、欧州ツアーをしていた時にその時が来たことを感じたよ。ステージ上でも、今誰がどこにいて次に何をするのかが、考えなくてもお互いにわかるんだ」あ・うんの呼吸、はたまた野生の勘というやつか。

ジョンが「ステーヴ・マリオットの曲」と紹介して演奏に入った「Rollin’ Over」(スモール・フェイセス)に「Look Out Cleveland」(ザ・バンド)とカバーを連発した後は、マークがソロ時代の曲「Old Lady Sunrise」を披露。待ちに待ったクロウズ・ナンバーの一発目「What Is Home」でもジョンとリッチは息のあったツイン・ヴォーカルを聴かせたが、次から次へと繰り出されるロックンロールは、選曲のバリエーションもさることながら演者のバリエーションも豊かだ。そんな中リッチがリード・ヴォーカルをとったのはアコースティック・セクションで演奏された「Christine’s Tune」(フライング・ブリトー・ブラザーズ)で、これが素晴らしかった。ソロ活動を経てリッチの歌声も進化していることを確信。シャウト系のクロウズ曲には向かないだろうが、カントリーやフォークのテイストが強い曲では、彼のまろやかで甘みのある歌声が活きる。

一方、マリオット〜ロビンソンの系譜に乗るジョンのシャウトを聴いていると、どうしたって兄ロビンソンを思いだしてしまう。ジョンとていいシンガーだけれど、同タイプでは、兄ロビンソンに太刀打ちできないことを思い知らされてちょっと寂しい気持ちにもなった。が! そんな気持ちも吹っ飛ばしたのは、彼らの真骨頂ともいうべきジャムの嵐。サイケなインプロが得意だったというドイツのバンド、アジテーション・フリーのカバー「Laila Pt.Ⅱ」の凄まじかったこと!! リッチのソロから入り、鍵盤、ドラム&ベース、ベース….と順番に主役を入れ替えながらグルーヴを巻き上げていく様は圧巻。

終盤は、クロウズ祭。「Ballad In Urgency」から「Wiser Time」へと続き、うまいことためて、ためて観客に「次は何が来る?」と思わせた果ての「My Morning Song」。イントロで観客は歓喜。やっぱり盛り上がるわけだ、あの頃のクロウズ・ナンバーは。もちろん私も大好きな曲だが、個人的にこの日演奏されたクロウズ・ナンバーの中では、ショウの中盤に置かれた「Non Fiction」が新鮮だった。そしてラストは「Send Me An Omen」。丸々2時間のロックンロール・ショウにアンコールはない。この潔さもいい。

SNSだのAIだのの時代にあっても、血の通った人間同士でなければ鳴らせないロックンロールが、間違いなくある。その時の気分でリズムを少し速めたりずらしたりすることもあるだろう。喉の調子によっては節回しを変えることだってあるかもしれない。それでも、お互いの呼吸や間を感じ取り対処しながら“塊”は動く。しなやかでしぶとく、そして美しい野生動物のようなこの“塊”が、今ここにいることに感謝しきりの夜だった。

(文:赤尾美香)

SET LIST
1. High Water
2. Omission
3. Mary The Gypsy
4. For The Wind
5. Rollin’ Over (SMALL FACES)
6. Look Out Cleveland (THE BAND)
7. Old Lady Sunrise (MARC FORD & THE NEPTUNE BLUES CLUB)
8. What Is Home (THE BLACK CROWES)
9. Sister Moon
10. Cristine’s Tune (FLYING BURRITO BROTHERS)
11.Nonfiction (THE BLACK CROWES)
12.Take It All
13.Laila PT.ll (AGITATION FREE)
14.Can You See
15.Ballad In Urgency (THE BLACK CROWES)
16.Wiser Time (THE BLACK CROWES)
17.My Morning Song (THE BLACK CROWES)
18.Send Me An Omen

オリジナル曲はもちろん、ボブ・ディランからピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンのカバーなど220曲以上のレパートリーを持つマグパイ・サルート。本日は同じく東京の恵比寿ザ・ガーデンホールで、明日は大阪のBIG CATにて来日公演を行う予定だ。毎公演ごとにセットリストを変え、純粋なまでにロックンロールを掻き鳴らす彼らの生々しくも圧巻なライブ・パフォーマンスをぜひ目の前で体感してほしい。



<来日公演情報>

THE MAGPIE SALUTE JAPAN TOUR 2019

東京公演
日程:2018年1月8日(火)
会場:恵比寿ザ・ガーデンホール
時間:19:00開演
料金:¥8,500(税込/スタンディング/入場整理番号付)
お問い合わせ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
※恵比寿ザ・ガーデンホール公演の当日券は、17:00より会場のチケット売場にて販売(スタンディング、入場時にドリンク代別途必要)

大阪公演
日程:2018年1月9日(水)
会場:BIGCAT
時間:19:00開演
料金:¥8,500(税込/スタンディング/入場整理番号付)
お問い合わせ:大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506
※大阪・BIGCAT公演の当日券は、17:30より会場のチケット売場にて販売(スタンディング、入場時にドリンク代別途必要)

Rolling Stone Japan 編集部

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