ブリトニー・スピアーズ『ベイビー・ワン・モア・タイム』は、いかにしてポップ界を変えたのか

ブリトニー・スピアーズのデビューアルバム『ベイビー・ワン・モア・タイム』がリリースがリリースされて20周年(Photo by Larry Busacca/WireImage)

ブリトニー・スピアーズの前代未聞なデビューアルバム『ベイビー・ワン・モア・タイム』は、純朴な10代の少女とアヴァンギャルドなポップサウンドを融合させた。

祝20周年。ブリトニー・スピアーズのデビューアルバム『ベイビー・ワン・モア・タイム』がリリースされたのは、1999年1月12日のことだ。正真正銘アヴァンギャルドなアルバムは、音楽の方向性を永遠に変えた。すでにバックストリート・ボーイズやインシンクが先陣を切っていたが、彼らがポップの直球ど真ん中だったのに対し、ブリトニーはロボット・ディスコの到来を告げるかのように鳴り物入りで現れた。BSBの「アイ・ウォント・イット・ザット・ウェイ」で20世紀ポップが息を引き取ったとすれば、「ベイビー・ワン・モア・タイム」は21世紀ポップが産声を上げた瞬間。彼女はあの当時から未来を予見していた。

ルイジアナで生まれ育ったごく普通の10代の少女の初レコーディング作品としては、なかなかの出来。大ヒットとなるタイトルトラックの作曲およびプロデュースを手掛けたのはマックス・マーティンだが、彼女があれほど悩ましげに「ウゥー、ベイビー、ベイビー」と歌わなかったら、これほど大ごとにはならなかっただろう。2000年にブリトニー本人から直接聞いたところによると、レコーディングの前の晩、彼女はSoft Cellの「Tainted Love (“what a sexy song”)」を聴いて過ごし、あの曲の雰囲気のお手本にしたそうだ。「自分の声をハスキーな感じにしたかったの」とブリトニー。「あの曲では声にグルーヴ感を出したかった。それで、前日かなり遅くまで夜更かししたもんだから、スタジオ入りした時には全然寝てなくて、その状態で歌ったら、すごく低い、艶っぽい声だったの、いい意味でね。わかるでしょ、低音をきかせるというか、すごくセクシーな感じ。それで自分に言い聞かせたの、『ブリトニー、絶対ぐっすり寝ちゃだめよ』ってね」



ブリトニーが「Tainted Love」のような雰囲気を狙ったのももっともだ。モータウン風ディーバを気取ったUKのアートかぶれが、吐息交じりに歌うニューウェイブ・デカダンス。彼女は官能的なキャバレー風のサウンドに、独特の南部風のうなり声を加え、まったく新しい方向性へと開花させた。「毎晩祈っていたわ」と本人。「『神様、お願いだから、家で聴いてるラジオ局で私の曲をかけてください』って。そしたら、ラジオから流れてきたの。そしたら急にニューヨーク中の主要ラジオ局でかかるようになった。あっという間にいろんなことが起きて、私はただ『ワオ』って感じだったわ。わかるでしょ?」

この曲は誰もが知る名作なので、1998年のクリスマスにMTVで最初に流れた当時、この曲がいかに奇妙で、波紋を呼んだかについては見過ごされがちだ。けばけばしいほど人工的で、メントス並みに非人間的。あれは何だ? スウェーデン人?スイス人?アイスランド人?はたまた地球外生命体?英語をよく知らない人間が書いたような歌詞だし――タイトルに、訳の分からない「...」がついている(個人的には「…」はできるだけ無視することにしている。ブリトニー風に言うなら、それが自分の特権だから)。だが、この曲にはどこか俗世間を超えた雰囲気がある。のちにTLCは、自分たちもこの曲をオファーされたが、断ったと言っていた。だがTLCに限らず、完成した大人がこの曲を歌うのはお門違いだったろう。T-ボズのような世慣れした大人が、「あなたと一緒じゃないと私、おかしくなっちゃう」と10代の心理状況を切に訴えるなんて、想像できるだろうか?絶対無理。これができるのはブリトニーだけだ。

Translated by Akiko Kato

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