【密着ルポ】現代のロックスター的存在、トラヴィス・スコットの日常

自閉症の兄について

Sealieが住む質素な1階建ての家の前に着くと、コーンロウにカーキ色の服という出で立ちで手にシャワーポールを持った若者が、通りの向かいの芝生の上に駐車された複数の車の間を縫って歩み寄ってきた。彼の名はDeshon、スコットの従兄弟だ。「こいつは正真正銘のギャングスタだ」。そう話すスコットは、すぐ近くの家を指して笑ってみせる。「こいつらはかなりのワルで、あらゆる悪事に手を染めてた。あの家を拠点にしてクラックを売りさばいたりな。俺ん家の芝刈り機を盗んでったこともあった。あの家から出てくるやつは、どいつもこいつもまるでゾンビだった。このエリアはかなりヤバかったんだよ」

Deshonを交えて腰を落ち着けたSealieの家のリビングには、金属製のフレームに収められた家族写真が飾られており、テーブル上にはプラスチック製の白いミシンが置かれていた。「行きたかったんだけどね」。昨日開催されたフェスについて、彼女はそう話した。「ばあちゃんは嘘ばっかりつくからなぁ」。スコットは反論してみせる。「たまにはギャングみたいにいこうよ!」。その呼びかけに、彼女は笑顔でこう答えた「ギャングみたいにって、どんなかしら?」

トラヴィスの叔父Lawalia Floodが招き入れてくれた彼の寝室は、壁一面が機材で埋め尽くされ、別の壁にはR&BトリオH-Townの1993年作『Fever For Da Flavor』のプラチナ認定ディスクが飾られていた。100万枚以上を売り上げた同作で、Floodはその手腕を発揮している。スコットは生まれてから約8年間、両親と兄のMarcusと共にこの家で暮らしていたという(また彼には10代の弟妹が2人いる)。彼の家系には音楽家が多く、Sealieの夫はジャズのミュージシャンであり、スコットの父親はドラマーだった。また彼のステージネームは、ベーシストだった別の叔父トラヴィスにちなんでいる。

少し前、スコットは富裕層が多く住むヒューストン郊外に家を購入し、両親にプレゼントした。彼はSealieにも同じことをするつもりだったが、彼女はこの家を出るつもりはないという。また自閉症をわずらう兄Marcusは、フルタイムのアシスタントと共に暮らしている。スコットがメディアの前でMarcusについて語ることはほとんどないが、初期の曲「アナログ」では彼に対する思いを率直に綴っている。

<夜遅く、世話役がいない状況で、兄が不調を訴える / その瞳を覗き込んだら、まるで彼の魂に触れたように感じた / 彼が何を感じているのか、俺は決して理解できないだろう>

スコットはこう話す。「彼は歩けるし、シャワーだって一人で浴びられる。けど、思っていることを言葉で他人に伝えることはできないんだ」。スコットの同級生のネイトはこう続ける。「心ここに在らずっていうか、何か他のことに夢中になってるみたいなんだ」。さらにスコットが付け加える。「でも彼は絵が上手い。以前はパワーレンジャーズをよく描いてて、ディティールへのこだわりに驚かされたよ。クレヨンでさ、トレースなんかまったくないんだ。彼が好きなのは絵を描くことと映画、それにビヨンセだ。毎年クリスマスには、俺はビヨンセのCDを彼にプレゼントしてた。彼女が作品を出さなかった年は、古いやつを買い直すんだ」


Photo by Dana Scruggs for Rolling Stone

彼はしばらくの間沈黙し、再び口を開いた。「時々、兄貴はかんしゃくを起こすんだよ。真夜中に大声で騒ぎ出して、寝てる俺に飛びかかってくることもある。俺はなんとかなだめようとするんだけど、わかってもらえなくてさ。でも、兄貴だからな」。そう話す彼はいつになく感傷的になっている様子だった。彼はライブでファンを頻繁にステージに上げるが、そのアイデアは兄とのやりとりから思いついたという。「大好きなアーティストのライブでステージに上げてもらったら、兄貴は死ぬほど喜ぶと思う。だから俺はファンに同じことをするんだ。俺はいつもMarcusのことを考えてるんだよ」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE