星野源『POP VIRUS』を考察「日本語ポップスの王道に潜む、国民的スターのトリック」

『YELLOW DANCER』では様々なリズムパターンが使われ、異なるジャンル/カテゴリーのリズムが持ちこまれて、様々な質感が鳴り響き、バラエティーに富んでいたのが、『POP VIRUS』ではシンプルな8ビートや16ビートがほとんどでリズムの色合いもかなり絞られて、かなりシンプルになった。一部、プログラミングされたビートが混じってくるものの、リズム的なトリックはあまり見られなくて、誰でも心地よく4で取れそうなビートがほとんどだ。

これはティン・パン・アレーや山下達郎の周辺が、アメリカの黒人音楽のグルーヴの輸入と解釈をベースに作ってきた、1970年代の日本の音楽のリズムを受け継ぐような、由緒正しき日本のポップミュージックといった佇まいだ。シンプルなリズムをうまく録って、きちんと鳴らすことを意識しつつ、リズムを強くしてグルーヴをパワーアップさせているあたりは現代的ともいえるが、一方でそのメロディーと歌を最優先させているあたり、「日本語の歌ものポップス」としての体裁がより強くなったとも言える(強いて言えば、ヴルフペックやジョーイ・ドーシックといった、現代アメリカのブルーアイドソウル/ファンクと通じるものかもしれない)。





アレンジに目をやると、「日本語の歌ものポップス」としての体裁がさらに見えてくる。『POP VIRUS』は、ほとんどの曲で歌とドラム(ビート)とベースが軸になっていて、そこに歌が乗るのが核になっている。その三つを中心に曲が進みながら、そこに少しずつ他の楽器が乗っては消えていく。『Stranger』や『YELLOW DANCER』との違いは、音の隙間がかなり多くなったことだと思う。

星野源はもともとSAKEROCKのリーダーだったわけだし、細野晴臣の『トロピカル・ダンディー』や『泰安洋行』をお気に入りに挙げているのも有名な話で、オリエンタルなメロディーやたくさんの音が詰まったカラフルなサウンドが好きな人なのだろう。『Stranger』や『YELLOW DANCER』を聴くと、そんな嗜好性がよく聴こえてくる。しかし、『POP VIRUS』での楽曲は基本的にリズムと歌だけでも成立しそうな曲が多く、その骨組みは実にシンプルでしっかりしている。そこに様々な楽器が加わるわけだが、たくさんの楽器が同時にごちゃっと鳴る瞬間はほとんどない。

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