45年前に脱獄した殺人犯、その巧妙な手口と現在の行方

1965年、当時14歳のメアリー・エレン・ディーンを殺害したとして有罪判決を受けたレスター・ユーバンクス(Courtesy of US Marshals)



脱走後、ユーバンクスは1970年初期の新しい時代の波に消えていった。噂によれば、ミシガン州へ向かった後、ロサンゼルスへ行ったと見られる。当局では、彼がヴィクター・ヤングと改名し、サイラー保安官補がいうところの「仲間たち」から協力を得て、新たな人生と自由を得たものとみている。本腰をあげてユーバンクスの捜索が行われるまでに、さらに20年の月日が流れた。

90年代初頭、マンスフィールド警察署のジョン・アークディ警部がこの事件に興味を示したことで、再び警察の目は事件に向けられた。殺人事件が起きた当時アークディはまだ高校生だったが、彼は純粋に好奇心から事件を調べ始めた。事件の現場がコロンバスで、彼の管轄外だったためだ。まずNCIC(全米犯罪情報センター:膨大な犯罪データーベースがある)を洗ってみると、ユーバンクスは指名手配リストにすら載っていないことが判明した。

つまり、ユーバンクスがスピード違反やその他軽犯罪で捕まっても、脱走囚としての記録が見つからないのだ。「あれから20年も経っていたのに、誰もが覚えている事件はほったらかしだったんです」。現在既に引退しているアークディ氏はローリングストーン誌の取材に対してこう答えた。「ヤツは外でのうのうと暮らしているというのに、誰も気にかけていなかったんです」

警察の無関心に面食らったアークディ警部は、TV番組『アメリカズ・モスト・ウォンテッド』にコンタクト。1994年にユーバンクの特集が放映された。「情報提供の数に圧倒されました」とアークディ氏は振り返る。番組のオンエア後、200件近い情報提供があったそうだ。さらに驚愕の事実として、逃亡者は北カリフォルニアで暮らしているーー少なくともある時期は暮らしていたーーとの通報があった。

アークディ警部はロサンゼルス警察のティム・コナー刑事とともに捜査にあたり、ユークリッドが番組放映直前までカリフォルニア州ガーデナのQuality Quilters社のマットレス工場で働いていたらしいとの結論に達した。にもかかわらず、2人は彼を捕らえることができなかった。「おそらく我々はある時期、かなり近いところまで彼に近づいていたと思います。ですが、情報提供やテクノロジーが十分でなかったため、逮捕までには至らなかったのです」と、コナー氏はローリングストーン誌に語った。

「ヤツはとても賢い。バカじゃありません」とコナー氏は付け加えた。「彼は40年以上も当局の目を逃れてきた。指紋や写真の提供が必要な仕事はしてこなかったはずです。経歴チェックが必要な職も避けていたでしょう。彼は一カ所に長居せず、あまり目立たずに過ごしてきたはずです」

状況からみて、以来彼はこれまで同様逃亡生活を続けているとみられる。この記事を書いている時点でも、サイラー保安官補のもとには連邦保安局の重要指名手配リストを見て、様々な州から情報が寄せられているという。フロリダ州、ジョージア州、アラバマ州、カリフォルニア州、オハイオ州。これだけでもほんのひと握りだ。だが、彼が待ち望むのは1本の電話ーー逃亡者の居場所と時間を結びつけ、逮捕にこぎつけることのできる1本の電話。そう願うのは彼一人ではない。

「何年もヤツのことを考え続けてきました」とコナー氏も言う。「彼はおそらく今も生きていると思いますよ。また何人かは、彼が何者で何をしたのか知っているでしょう。まだ通報していないというだけでね」

被害者のメアリーの姉、マートル・カーターは長いこと、出来る限り自分の人生を謳歌することに努めてきたーーだが妹の殺人事件の影響で、自分の子どもたちからは決して目を離さないようにしている。「事件のせいで私の人生がボロボロになったとは思わないでください。事実、そうではありませんから」と彼女は言う。「私はキリスト教徒です。神を信じ、神の導きに従って生きています。自分の力が及ばないことにクヨクヨしても仕方ありません。事件でボロボロになってはいませんが、犯人がいまだ見つかっていないということは気がかりです。妹の無垢な人生を奪った男がいまだ自由の身だということが、心にひっかかっています」

それはサイラー保安官補にも同様だ。ひとつには、彼の考えではユーバンクスが単独行動ではなく、彼の犯罪歴を知ってか知らずか、協力者がいると思われるからだ。保安官補は、ユーバンクスが結婚して、子どもや孫もいると考えている。だがそれはそれで悲劇だと、サイラー保安官補は言う。「悲しいかな、彼が手に入れた家族もまた被害者なのです。彼らは何も知りません。我々が玄関のドアをノックしてその人物を捕らえたとき、家族も被害者となるのです。胸が痛みます」

Translated by Akiko Kato

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