グラミー賞の栄冠を狙う、トップアーティストたちのマーケティング戦略

昨年スティーヴ・クノッパーは、ハリー・スタイルズやポルトガル・ザ・マンらによる激しい宣伝活動を時系列に沿ってまとめた。さらに、ニュージャージーのインディーズレーベルBongo Boy Recordsの共同オーナー、モニーク・グリムをはじめとする業界の大物が、いかにしてグラミーの投票人と思われる人々の名前を人脈やネット上のフォーラムから収集しているかを取材した。グリムはインディーズのアーティストを対象に、8,000人以上のメールアドレスを掲載したこのリストを提供するサービスを展開。さらに、グラミー投票シーズン中の宣伝活動に一石を投じた。「ここに投票すべき才能のある若者がいますよ、と、投票人のコミュニティにアピールする、一つのやり方です」と彼女は言う。インディーズのアーティストにとって、こうしたサービスはキャリアを左右する重要なカギなのだ。

また、曲の制作メンバー全員がタッグを組んで受賞を狙っている賞候補者も多い。「楽曲に関わる作曲者、プロデューサー、アーティストの数といったら!クレジットを載せるスペースが足りないぐらいですよ」とグラス氏。「みんなそうやって受賞確率をあげているんですよ。時には、1曲に11~15人も絡んでいることもあります。受賞確率をあげるようと、みんな協力体制を敷くようになっています」

たしかに、グラミー賞の母体であるザ・レコーディング・アカデミーによれば、今年は84部門に対し2万1000件以上もの応募書類が送られて来たそうだ。審査で埋もれてしまうのを避けるようと、あまり名の知れないアーティストは互いに資金を出し合って、認知度アップのために共同で広告を出している。個人に狙いをしぼるなら、「グラミー懇親会というのがあります。アカデミーの会員らが重要人物を集めて主催する交流会で、そこでなら投票人コミュニティを見つけられますよ」とグリムはアドバイスする。ダンスミュージックの大御所ローレンス・ルイは、グラミー賞でひとやま宛てたいインディーズアーティストの発掘に特化したマーケティング会社を運営している。彼曰く、業界紙の広告ページは資金の潤沢な三大レーベルに「文字通り、全部おさえられている」そうだ。結果として、インディーズアーティストたちは口コミや、一目置かれたヒットメーカーやミュージシャン仲間の人脈に頼るのことになる「ちりも積もれば山となる、ですよ」とルイは言う。

そもそも、なぜそこまでやっきになるのか? ひとつには、セールス増加がある。昨年のグラミー受賞アーティストの中には、授賞式の翌日にアルバムセールスが2倍以上に膨れ上がった者もいた。データに憑りつかれたデジタル時代の今、数字は見過ごすことのできないビッグチャンスだ。

しかしながら、音楽がより身近に、より豊富になればなるほど、狭き門である業界最大の栄誉グラミーは、より一層大きな意味を持つようになった。「ラジオは以前とは変わってしまった。インターネットは飽和状態。だからこそ、グラミーにノミネートされたとか、受賞したとかいうのが、一番確実なのよ」と言うのは、ニューエイジ部門にノミネートされた独立系アーティストのLili Haydn。本人も、実際に自分でプロモーションにとりかかるまでは、グラミーの票固めがこれほどスケールの大きいものだとは思いもよらなかったそうだ。「知り合いには、業界きってのプロモーターに3500ドルも払う人もいるわ。みんなかなりの大金を払ってる」

高くつく一大マーケティング攻撃が空振りに終わったとしても、リスクを犯しただけの甲斐はある。「ミュージシャンたちは、どうすれば自分を売り込めるか全くわからない状態です」とルイ。「オンラインでの存在感をアピールしろとか、宣伝マンをつけろとか、できるだけたくさんライブをやれとか言われています。売り込み方法はどんどん進化していますが、グラミーのノミネーションを勝ち取る、あるいは受賞すること自体が、キャリアにはっきり、大きな変化をもたらすのです」

Translated by Akiko Kato

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