音楽評論家・田中宗一郎が語る、ミックステープ・カルチャーが変えた「2010年代の音楽のルール」とは?

2018年のリル・ウェイン(Photo by Erika Goldring/Getty Images)

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬な音楽の話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。2018年12月発売号の対談では、2010年代の世界的なラップ・ブームの発火点のひとつとなったミックステープ・カルチャーと、それが変えた「ポップ・ミュージックのゲームの規則」について、田中が考察している。

まず田中は、自分がミックステープ・カルチャーに魅了された理由について、このように話している。

田中:ここ数年、2000年代半ばにリル・ウェインが始めて、2014年にヤング・サグが発見されたタイミングで本格的に花開いたミックステープ・カルチャーに端を発するサウスのヒップホップに魅了されてた。なぜかと言うと、サウンドだけでなく、ビジネス的なスキーム、アティテュード、そのすべてにおいてゲームの規則が抜本的に刷新されたという興奮があったから。

では、具体的にミックステープ・カルチャーは何を変えたのか? 田中はこのように説明している。

田中:例えばカニエ・ウェストは、ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』からの伝統を受け継ぐ形で、アーティストはアルバムというフォーマットを通して価値観を更新させていくんだ、っていうアティテュードをずっとリプレゼントしてきたわけじゃない? 一方で、それとは真逆のことをやったのがリル・ウェインだよね。彼は『カーター』シリーズみたいなしっかりとしたアルバムも出すけど、同時に、何枚ものミックステープを出す。しかも、その中身は流行りの曲に自分のフリースタイルを乗せただけのビートジャックだったり。つまり、乱暴に言うと、質より量で勝負しようとした。実にカニエとは対照的だし、やっぱり独自のルールを作り上げたんだよね。で、そうした価値観や戦略、スタイルを多くのラッパーが受け継ぐことで、すっかりゲームの規則が更新されて、今のラップ主導の時代が訪れたわけじゃない?


リル・ウェインが2018年に発表したアルバム『Tha Carter V』


リル・ウェインが2017年に発表したミックステープ『Dedication 6』では、ケンドリック・ラマー「DNA.」やポスト・マローン「ロックスター」など同年の人気曲のトラックがふんだんに使われている。

そして、そうしたルールの更新後に訪れたのは、「容赦ない椅子取りゲーム」の時代だと田中は分析している。

田中:そのゲームの規則が固まってきたと感じ始めたのが去年の秋。だから、新たなゲームの規則が固定化してしまって、容赦ない椅子取りゲームの時代に移行したのが2018年なんじゃないかな。もしかすると、2017年初頭にミーゴスの『カルチャー』が大ヒットしたことで、ゲームの規則が確定したのかもしれない。このやり方のバリエーションをやれば勝てるんだ、っていう理解が浸透することで、容赦ない椅子取りゲームがすべての基調になったのが2018年。そんな認識ですかね。

その後、2人の会話は、この椅子取りゲームの時代におけるチャイルディッシュ・ガンビーノの批評性や、ゲームの勝者であるドレイクやトラヴィス・スコットなどにまで広がっている。

Edit by The Sign Magazine



田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。







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