ドーターのエレナ・トンラが語る、失恋から生まれたEx:Reのブルーな世界

―では、『Ex:Re』の背景についても聞かせてください。「New York」、「Romance」、そして「The Dazzler」の3曲を僕はある一晩の物語として聴いたんですけど、主人公はずっとアルコールで酔っ払っていますよね。あなた自身、お酒はかなり呑まれる方なんですか?

おっしゃる通り、アルバムの制作中はかなり呑んでいましたね。さすがに今は控えるようにしていますけど(笑)。

―「The Dazzler」の歌詞にあるように、さすがにホテルの窓からテレビを投げたりはしてないですよね(笑)?

ええ(笑)。実際にはタオルをたくさん使っちゃったりとか、ミニバーのボトルをこっそり飲んだりとか、些細なことです。ただ、「ホテルの部屋でどういったことが起きるだろう?」と考えた時に、“テレビを窓から投げてやる”みたいな、そういうロックスターっぽい振る舞いを想像することもあって。ホテルって「やれること/やれないこと」で独自のルールがあるじゃないですか? そこからイマジネーションを膨らませて歌詞を書きました。


Photo by Hikaru Hagiwara

―女優のマクシーン・ピークが出演する「The Dazzler」のMVは、ちょっぴりホラーな結末を迎えます。監督のイアン・フォーサイス&ジェーン・ポラードは「ヒッチコックの『めまい』を参考に、ホテルの部屋で無限ループに陥った状態を描いた」と語っていましたが、その「ループ」というのはアルバム全体に通じる重要なテーマでもありますよね。


イアン&ジェーンは過去にもドーターのビデオを4本手がけてくれているんですが、私自身が彼女たちの大ファンでもあるんですね。で、今回のビデオは歌詞をそのまま物語として映像化することにしたんですが、たしかに少し怖いというか、不気味な世界になっているとは思います。誰かが恋人を忘れられない時に溺れてしまう想像上の空間と言いますか……それをホテルの部屋に当てはめてみたんです。

―なるほど。ループについてはどうですか?

このビデオの場合は「時間の概念」というものを無くしてしまったので、これが一晩の出来事なのか、彼女は1週間そこにいるのか、あるいは1年以上も囚われているのか分からないのが面白いですよね。あと、アルバムのプロデューサーでもあるファビアン(・プリン)がコンシェルジュ役でカメオ出演しているんですけど、とても良い仕事をしていると思います(笑)。



―彼は昨晩(4ADのショウケース・イベント)も素晴らしいドラム・プレイを披露していましたね。「ループ」という観点で付け加えると、「Romance」のビートがライブでも人力だったことにも驚いたのですが、アルバムの楽曲をライブに落とし込む上で、ファビアンさんとはどんなことを話し合ったのでしょうか?

私とファビアンは長い時間をかけてこのアルバムを作ったので、(ライブに当たって)特に話し合うことなくヴィジョンが共有できていたと感じます。あとはチェロのジョセフィン(・スティーブンソン)も参加してくれていたから、ステージでは4人中の3人がアルバムに関わってくれたメンバーでもあった。レコーディングそのものもライブみたいに進めていましたし、アルバムの持つ雰囲気は忠実に再現できたんじゃないかと思いますね。

―「Romance」はアルバムにおいても少し異質というか、ビートが効いた楽曲じゃないですか。それで、「素材」としてのエレナさんの声にものすごく可能性を感じたんですね。ハウスっぽいサウンドは以前からトライしてみたかったとか?

たしかに私はエレクトロニック・ミュージックの大ファンですし、この曲のMVでも――あまり上手ではないですけど(苦笑)――髪を振り乱して踊っているぐらいですから、踊ることもダンス・ミュージックも大好きなんですが、自分の音楽に(その要素を)取り込もうと意識したことは無いです。ただ、「Romance」に関しては、この曲の思い出がクラブで起こった経験を元にしているからなんですね。その記憶や雰囲気を再現したかったから、ああいったサウンドがフィットしたんだと思います。



―何かしら影響されたトラックメイカーっていましたか?


直接的な影響ではないんですが、ニルス・フラームみたいにオーケストラとビートを融合したサウンドに惹かれますね。あとは、バス(Baths)のテクスチャーを活かしたエレクトロニック・ミュージックも大好きです。

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