不法滞在取り締まりのため、米連邦局が仕掛けた「実在しない大学」の罠

ファーミントン大学にはキャンパスがないどころか、授業も行われていなかった。(Courtesy of University of Farmington)

実在しない大学が、学生ビザで移民たちをアメリカに滞在させている――。実はこれは、移民関税執行局(ICE)の潜入捜査官による、巧妙に仕組まれたおとり捜査であることが明らかになった。

ファーミントン大学のWEBサイトはすでに閉鎖され、代わりに「ファーミントン大学はアメリカ国土安全保障省・移民税関執行局によって閉鎖されました」という公式通知が掲載されている。だがワシントンポスト紙によると、先週まではこのサイトも他の大学と同じように「画期的なSTEM(ステム)教育カリキュラム」を宣伝し、学生が中庭や図書館で勉学に励む写真を掲載していたという。

「自動車と最新製造業の拠点、ミシガン州東南部の中心地に位置するファーミントン大学では、世界中の留学生たちにユニークな教育体験を提供しています」という謳い文句が掲載されていたそうだ。

だがそれはすべて表向きのこと。ファーミントン大学にはキャンパスもなければ、画期的なSTEM教育カリキュラムもなし。それどころか授業は一切行われていなかった。ファーミントン大学は移民法の網をかいくぐる手段として、最近やってきた移民たちの間でひそかに存在を知られていた。

移民らは「学費」を支払う代わりに、学生としての偽造書類を手にしていた。一般的に学生ビザを入手した場合、そのまま大学に在籍して学位取得を目指すか、さもなくば、60日以内に出国しなくてはならない。ファーミントン大学では、学生が実際に授業に出席しなくても、要件を満たしているように見せかけていた。噂によれば2015年の設立以来、このプログラムを通して少なくとも600人の不法滞在を支援してきたという。

大胆かつ巧妙、お金さえ払えばだれでも移民法を回避できる見事な手口だ。だが先週、偽の大学を運営していたのは実はICEだったと連邦検事局が公表した。つまり、不法滞在を試みる者や、そのための偽造書類の作成にあたっていた斡旋業者らを摘発するために、入念に仕組んだおとり捜査だったのだ。

地元紙デトロイトニュースの報道によれば、連邦捜査官は国内に散らばるファーミントン大学の「学生たち」と、仲介役を務めた8人の斡旋業者を逮捕した。斡旋業者らは、在学証明や学生ビザ更新の書類など、様々な記録文書を偽造していたとみられ、今回だけでのべ25万人以上を仲介してきたとみられる。

「容疑者らは何百人もの海外国籍者に手を貸し、学生でもないのに学生になりすましてアメリカに不法滞在させていました」と語るのは、捜査の指揮にあたったスティーヴ・フランシス特別捜査官。ICE国土安全保障捜査局(HIS)のデトロイト支局長でもある彼は、地元紙デトロイトフリープレスの取材でこう語った。「HISはアメリカ移民法の権威を守るべく、今後も監視を続け、今回をはじめとするその他の多国間犯罪を引き続き捜査していきます」

ローリングストーン誌では、今回のおとり捜査で強制退去される元「学生」の人数を尋ねたが、ICEからの返答は得られなかった。

移民法をかいくぐる人々をとらえるための罠として、連邦捜査官が偽の大学をでっちあげたのは今回が初めてではない。2016年には、ノーザンニュージャージー大学が同じくおとり捜査であることが判明し、結果的に「学生」の入学手続きを手配した22名が逮捕された。こうしたおとり捜査が他にいくつぐらい行われているのか知る由もないが、今回の事件はまさに、うまい話にはウラがあるという教訓となっただろう。

Translated by Akiko Kato

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