HIROOMI TOSAKAライブレポ:壮大なヴィジョンと等身大の素顔が織りなす「物語」

ライブ中とりわけ女性ファンの血を躍らせたのは、中盤に差し掛かった頃、ミドルテンポのラブソング「EGO」。登坂は1人の女性ダンサーとラブラブなカップルを演じ、指を絡ませる恋人つなぎ、手を引いて階段をエスコート、腰に手を回して歩く、壁ドン、腰振りダンス、チークダンス、ソファで密着、熱い抱擁……と、大胆不敵にセクシーな絡みを披露。会場は黄色い悲鳴の坩堝と化した。このとき、登坂と疑似恋愛している気分ややきもちに似た感情に陥った人は数知れない。私はこれはファンサービスの一環と言えるもので、ヴィジュアルへの需要も楽曲の趣向も汲み取った、登坂だからこそ成立する好演出だったと思う。

その後、しっとりとした曲が連続するパートへ。スペシャルゲスト・BENIと向き合って歌う「One Last Time」、大切な人を思って作ったというバラード「With You」を届ける。このあたりで感じたのが、登坂のシンガーとしての本質的な魅力とスキルアップだ。もともと影のある歌い方をする彼は、俯いているのが似合う。それが人目には艶っぽくも映る。グループの相方である今市隆二は相対するタイプでもあり、メンバーや周囲が「隆二が太陽、臣が月」と例えるのも合点がいく。登坂のそんなミステリアスさやシャイさが聴き手の心をくすぐるのだと考えている。一方で、技術的には歌詞がよりクリアに聞こえる歌い方になった気がしている。あくまで個人的所感だが、一時期はもっと息が入っていて聞こえづらかったこともある。楽曲固有の個性をつかみ、力強く表現する手腕は、デビュー9年目にして一層進化しているのではないだろうか。


Courtesy of rhythm zone

折り返し地点のMCでは、多方面で活躍している三代目メンバーたちの近況を報告。喋るのが得意ではないと自認する登坂は、訥々と言葉を届けるが「2019年、三代目として本格的に帰ってきますので、それぞれの活動を楽しんで待っていただけたらなと思います」と話すと場内から期待の拍手を受ける。そしてセンターステージに進み、観客を着席させてバンドメンバー4人とのアコースティックセットに移った。本人曰く「アーティストになってからの自分の人生を音楽とともに振り返る」コーナーの始まりだ。MAKO-T(Key)がピアニカ兼ローズ、Lorenzo(Dr)がカホン、JUON(Gt, Cho)がアコースティックギター、MARIO(Ba)がウッドベースを奏で、登坂も着座してリラックスした歌声にスイッチングする。

彼はルーツソングとして、SMAPの「らいおんハート」と尾崎豊の「OH MY LITTLE GIRL」をカバー。前者は2010年に開催されたオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION 2 ~夢を持った若者達へ~」の第一次審査にて20秒間アカペラで歌った楽曲だ。「音楽経験もない中、自分の人生を乗せて下手なりに歌いました」「これがなければ歌手の自分もグループ自体もなかったかもしれない。それぐらい自分にとっては大きな曲」と、オーディション当時を回想しつつ原点の1曲を披露する登坂。このオーディションに合格してデビューした彼は、グループのヴォーカルとして邁進する日々を送る。そんな中、キャリアの大きな一歩となったのが、2014年に出演した映画『ホットロード』だった。「OH MY LITTLE GIRL」はその主題歌だ。

映画出演のオファーをもらったとき、芝居の世界にチャレンジすることに戸惑いを感じて一度は断ったこと。しかし原作者や関係者からの熱意に打たれ承諾したこと。演じた春山洋志役に通ずる尾崎豊の人生を学んだこと。作品を大事に思うあまりこの曲を歌うのを畏怖していたこと。この初ソロツアーの場で初めて歌おうと決意したこと。すべて正直に明かす登坂の姿に、観客はじっくり見入っていた。春山役の登坂が満を持して歌った「OH MY LITTLE GIRL」は、これまでに触れた同曲カバーの中でも白眉だったように思う。エモーショナルでハートウォーミングな歌唱がアリーナにじんわり響き渡った。

セッションコーナーの締めくくりは、三代目 J SOUL BROTHERSの1stアルバム『J Soul Brothers』に収録されている「君となら」。登坂が三代目の中でも特に好きな曲で、「ファンの皆さんと一緒に楽しむために」と選曲したという。登坂のテーマカラーであるブルーのペンライトに包まれた場内には、登坂とファン双方の歌声がこだまし、温かさで満たされた一幕だった。

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