アームストロング船長が愛聴していた「スペースエイジ・バチェラー・パッド・ミュージック」

『ファースト・マン』2019年2月8日(金)より全国順次ロードショー(Courtesy of Universal Pictures)

宇宙飛行士ニール・アームストロングを描いた伝記映画『ファースト・マン』。月面着陸という「偉業」の裏にある時代背景とそれを伝える劇中の音楽とは?

※この記事は現在発売中の『Rolling Stone JAPAN vol.05』に掲載されたものです。

『ラ・ラ・ランド』の監督デイミアン・チャゼルが、ライアン・ゴズリングを再び主演に迎えて撮った『ファースト・マン』は、人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士ニール・アームストロングを描いた伝記映画である。物語は、彼がNASAに応募する1961年に始まり、1969年のアポロ11号の月面軟着陸で幕を閉じる。王道の構成だ。

しかし本作、保守的なアメリカ人からは「非愛国的」とバッシングされたそう。理由は、月面に立つ星条旗を映していないからとされているが、実際は旗がはためいている様子はしっかり撮影されている。おそらく彼らは自分が何に対して腹を立てたのか言語化できなかったのだろう。でも日本に住む僕らなら言葉にできるはず。チャゼルは、人類の偉業とされているアポロ計画が実はひたすら気が滅入るようなものだったことを明らかにしてしまったのだ。

映画では宇宙ロケットのローテクぶり、造りの雑さ、コクピットの狭さがこれでもかと強調される。実際、アポロ計画は無謀としか言いようがないものだった。何しろスマホにすら遠く及ばない計算機だけを頼りに、鋼鉄の棺桶に人を閉じ込めて、火を付けて空に飛ばして、月まで行って帰って来いというのだから。狂気の沙汰だ。実験段階ではアームストロングの同僚が何人も死んでいる。



世論も冷淡だった。ケネディ大統領が「60年代の終りまでに月着陸を実現させたい」と演説でぶちあげた1961年当時、アメリカ経済は絶頂にあった。だが最終的に254億ドル(2005年現在の貨幣価値に換算すると、約1350億ドル)にまで及んだ巨額の費用は経済を蝕んだ。60年代の終わりには、月面着陸より人種問題や失業問題の解消、泥沼化したヴェトナム戦争の終結に力を注ぐべきとの意見が多数を占めていた。

そんな状況を示すため映画では、TV番組に出演したSF作家カート・ヴォネガット・ジュニアが(宇宙飛行を応援する立場のはずなのに)アポロ計画について批判的な発言をしているフッテージや、宇宙センターの周辺で開催された反対集会のシーンが挟み込まれる。集会ではアフリカ系アメリカ人のパフォーマーが、パーカッションをバックにこんな言葉をまくし立てて若者たちの喝采を浴びている。

「俺には医療費なんか払えやしない/でも白んぼは月に行く/知ってるだろ、公団の家賃が上がりやがった/だって白んぼが月に行くからな/お湯も出ない、トイレの水も流れない、灯りも止められた/でも白んぼは月に行くのさ」

パフォーマーを演じているのは、60年代的レトロモダンな音楽性で人気を博しているR&Bシンガーのリオン・ブリッジス。しっかり役名もある。その名はギル・スコット・ヘロン。ジャズ・ファンクに乗せてメッセージ性溢れる詞をリズミカルに朗読するスタイルによって“元祖ラッパー”としてリスペクトされた実在のアーティストだ。

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