「業界の外」から音楽業界の流れを変える、知っておくべき世界の実力者トップ5

5)吉田憲一郎 ソニーCEO兼会長

昨年、音楽業界のビッグニュースはソニー絡みのものばかりだった。まず5月、日系大手ソニーは23億ドルを投じて、EMIミュージックパブリッシングの株式の60%を獲得したというニュースが飛び込んできた。EMIミュージックパブリッシングは、カニエ・ウェストやクイーン、キャロル・キング、カルヴィン・ハリスといった作曲家らによる200万以上の楽曲を所有する。さらにソニーは、ジャクソン・エステートが所有していた残る10%の株式を2億8750万ドルで買い上げ、最終的にEMIを買収した。

これらの動きのわずか2年前には、ソニーはジャクソン・エステートと7億5000万ドルの契約を結び、ソニー・ATV――また別の世界最大の音楽出版会社――の株式の50%を獲得し、同社の完全経営権を手にしていた。

こうして(ソニー・ATVとEMIミュージックパブリッシングを合わせた)莫大な連結資産を手にしたソニーは、経営にあたり優秀な人材を引き抜くことにした。そして白羽の矢があったのが彼。昨年9月、今日音楽出版業界で最も尊敬を集める人物として名前の挙がるジョン・プラット氏が、2019年第4四半期よりソニー・ATVに就任することが発表された。ソニーはプラット氏をライバル会社ワーナー・チャペルから引き抜いた形となった。

現在、ソニーのアメリカチームは音楽出版部門にプラット氏を据え、音楽制作部門であるソニー・ミュージックのCEOにはロニー・ストリンガー氏を抜擢した。プラット氏がひとたびソニー・ATVに収まれば、両氏はともに吉田憲一郎氏の直属の部下となる。彼こそが、25億ドル強でEMIの買収にこぎつけた立役者だ。

吉田氏は音楽の真価を本気で信じているに違いない。というのも彼は、昨年2月にソニーのCEOに就任する以前は、どちらかというと節約家として知られていたからだ。吉田氏は前CEOの平井一夫に引き抜かれてソニーへ入社。2014年にCFOに抜擢された。当初は経営のスリム化を任され、Vaioのラップトップ業務の売却、リストラ、テレビ製造部門の独立化などに踏み切った。

吉田氏の音楽の価値へのこだわりは、プラット氏やストリンガー氏にとっては心強い。だが今年後半、ソニー最大のライバルであるユニバーサル・ミュージック・グループが50%の株式を売却し、途方もない額を手にしたとしたら? ひょっとするとひょっとするかもしれない。

ユニバーサルの企業価値が相当な額にのぼれば、周囲の競合他社の企業価値も比例して押し上げられることになる。そうなった場合、吉田氏がソニーの音楽部門に固執しつづけるかどうかが、2020年以降の音楽業界の最大の焦点になりそうだ……。


・著者プロフィール
ティム・インガムはMusic Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。

Translated by Akiko Kato

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