2019年グラミー賞総括、女性賞賛と多様性を掲げた授賞式

司会を務めたアリシア・キーズとレディー・ガガやミシェルオバマ (Photo by Emma McIntyre/Getty Images for The Recording Academy)


だが、最も歴史的な賞は、TV中継の始まる前に授与された。デヴィッド・ボウイやポール・マッカートニー、ビョークやデスティニーズ・チャイルドをはじめとする数々のアーティストのアルバムを手掛けたマスターエンジニア、エミー・ラザールが、ベックの『カラーズ』で女性として初めて「最優秀エンジニア・アルバム賞(クラシック以外)」を受賞したのだ。だがキーズは型どおりに受賞を告げただけで、セレモニーはそのままクライマックスへと移っていった。

授賞式のパフォーマンスも女性が大部分を占めた。カミラ・カベロはオールスター総出演で「ハバナ」を披露し、H.E.R.は大盛り上がりの「Hard Place」をギターシュレッディングで締めくくった。カーディ・Bは「マネー」のパフォーマンスで、ステージ上を闊歩しながらラップをまくしたてた。ジャネール・モネイは『ダーティ・コンピューター』の1曲「メイク・ミー・フィール」で女性の色香を炸裂させ、この夜のテーマ「ヴァギナにも語らせろ」をこれでもかというほど見せつけた。

時折レコーディング・アカデミーおなじみの「グラミー名場面マシーン」が登場しては、さまざまな悲喜こもごもの瞬間を織り交ぜて場を盛り上げた。その他、ドリー・パートンのトリビュートで本人がサプライズで登場し、マイリー・サイラス、マレン・モリスと一緒にニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」をアカペラで熱唱。デュア・リパとSt. Vincentがタッグを組んで披露した「Masseduction」と「One Kiss」のマッシュアップには、アレサ・フランクリンの「リスペクト」が差し込まれた。ダイアナ・ロスは「ザ・ベスト・イヤーズ・オブ・マイ・ライフ」と「リーチ・アウト・アンド・タッチ(サムバディズ・ハンド)」の1曲を華麗に歌いあげ、(1か月早い)75歳のバースデーをお祝いした。

あまりピンとこなかった場面は、ジェニファー・ロペスによるモータウン・トリビュート。ノスタルジーなばかりで、ほとんど中身がなかった。中でもとくに首をかしげたくなった瞬間は、間違いなくポスト・マローンとレッド・ホット・チリ・ペッパーズだろう。ポスト・マローンの「ステイ」「ロックスター」に、レッチリの「ダーク・ネセシティーズ」を合わせたのラップ&ロックのメドレーはちっとも面白みがなかった。

2019年グラミー賞はまぎれもなく、ショウビズ界が目指す多様性と共生社会の実現に向けて大きな一歩を踏み出したが、時折PR色が強すぎるという印象も否めない。あれほど社会正義を訴えながらも、音楽業界全体は移民関税執行局によって拘束されたために授賞式に出席できなかった21サヴェージ――ポスト・マローンとともに「ロックスター」でノミネートされていた――の存在を忘れてしまったかのようだった。唯一表立って発言したのは、授賞式の最後に登場した「ディス・イズ・アメリカ」の共同作曲家で共同プロデューサーのルドウィグ・ゴランソンだけ。「本当なら21サヴェージもこの場にいるべきだったのに」と言うや、マキをあおる音楽が流れ始めた。

いろいろあったとしても、2019年グラミー賞はさまざまな意味で例年とさほど変わらなかった。パフォーマンスやトリビュートが次から次へと続いて盛り上がり、賞は後付けのように授与されておしまい(TV中継宙に授与された賞はたった9部門だけだ)。だが、グラミ-賞に対する批評も、グラミー賞の伝統であり、3時間半以上におよぶ授賞式の見せ場でもある。この事実は、やはり日曜の夜にも繰り返された。

最優秀ラップソング賞を受賞したドレイクは受賞スピーチで、グラミー賞に対する穏やかならぬ発言をした。「僕らが勝負している世界は、事実よりも評判を重視している。本当は、自分の曲を一語一句歌ってくれる人がいて、故郷の自慢の種になれたなら、それで勝ったも同然なんだ。雨の日も雪の日もちゃんと出勤して、ちゃんと仕事している人々が、コンサートのチケットを買ってくれるなら、こんな賞はいらない」

ドレイクはいったん言葉を切って、さらに続けようとしたが――グラミー賞は無情にもコマーシャルへと切り替わった。

Translated by Akiko Kato

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