なぜヒットソングは減速し続けるのか? 音楽シーンのトレンドをBPMから読み解く

2018年のヒットメーターで対極にあるのが、真冬に氷が解けるようなスピードの曲。ザ・ウィークエンドの「コール・アウト・マイ・ネーム」(BPMはたったの45)や、エミネムの「キルショット」(BPM53)、リル・ウェインの「Don’t Cry」(BMP57)などがそうだ。

ウィークエンドの胸焦がすバラードは特に際立っている。オリヴェット氏によれば、2017年の調査対象曲の中で、もっともスローテンポだった曲でもBPM57。すなわち「コール・アウト・マイ・ネーム」は、ノロノロペースの楽曲のなかでもさらに輪をかけてノロノロ運転だということだ。





両極端なヒット曲は見つかるが、その中間には目立った存在がいない。上位5曲にランクインしたシングルをみると、「BPM110~125の範囲内は不毛地帯」で、125からいきなりスピードが上がるのだとオリヴェット氏は言う。「1曲もないんです。でも、60年代、70年代、80年代にまでさかのぼれば、そういうヒット曲は山のようにある。ローリングストーン誌が選ぶトップ500を例にとれば(もっとも、これはチャートの結果よりも批評家の意見を反映しているのだが)、大半の楽曲が下はBPM106、上は125、場合によっては130まで行くでしょう」

なぜ現代のポップの作曲家はスローモードなのか、オリヴェット氏の説はこうだ。「デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)で作曲するのと、主にピアノやギターで作曲していたことの違いでしょう。僕も昔はシンガーソングライターの世界にいましたからね。クラブでメトロノームを引っ張り出すか、あるいは大雑把でもいいので計ってみればわかりますよ。今どきのシンガーソングライターの曲はみんなテンポが似たり寄ったりなんです」ギターが主流だった時代は、テンポもひとつに集中していた。だが、これだけ多くの人間がそれぞれ作曲する世の中、どれも同じテンポになるというのもおかしなものだ。

言うまでもないことだが、現在のシングルチャート100位圏内には、現状のポップのスロー化を覆しそうな楽曲は見当たらない――テンポの不毛地帯といわれる範囲に当てはまる曲も皆無だ。ラウド・ラグジュアリーの出世作となったポップハウス調の「Body」はBPM122だが、50位以上に食い込むことはできなかった。BPM115で一気に駆け抜けるPinkfongのちびっこソング「Baby Shark」はかろうじて40位圏内に入ったものの、ちびっこソングとはそういうもの。ポップ系は全滅だ。



今のところアップテンポ・ソングの中で頭ひとつ飛び出しているのは、エイバ・マックスの「スウィート・バット・サイコ」だろうか。BPM133の疾走感あふれるビートに乗って、35位まで登り詰めた(UKチャートではNo.1を獲得)。いまのゆったりポップの風潮のなかでは大健闘といえるが、アップテンポを好むリスナーには気がかりでもある。「スウィート・バット・サイコ」は、突き抜けるビートがヒットのカギだと思われていた2010年への回帰。たしかに現状の流れをスピードアップしてはいる。ただし、過去に向かって加速しているのだ。

Translated by Akiko Kato

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