betcover!!の葛藤と信念「みんなから音楽以外はできないと言われる」

2018年11月11日に開催された「NEW TOWN」にライブ出演したbetcover!!(Photo by Uwabo Koudai)

ヤナセジロウが体育館のステージでギターを鳴らして歌っている。ミラーボールを反射する目が満月のような銀色で、丸くひかひかに燃えている。抱えたエレキギターと同じくらい薄い身体から出る声が体育館中の空気を震わせていた。

2018年リリースのEP『サンダーボルトチェーンソー』収録の「平和の大使」をライブで聴いたとき、まさに本作のテーマになったというヤナセの地元・多摩川の河川敷が、同じく川辺で育った私の前へあざやかに現れた。ゆったりとしたダブのリズムに渋く艶のあるヴォーカルが乗り、粗い紗のかかったギターが波のように転調していく。

“それは南南西から
光を帯びてやってきた
けど恥ずかしいくらいにもう
僕はただの人間でした (は?)
ベイビー 
君には平和の大使がついている 
僕はそれを知りながら
見え透いた嘘をつきます”

一瞬で夢中になった。

ヤナセジロウは2016年に高校を半期で中退、17歳でbetcover!!として音楽誌主催のオーディションで優勝を勝ち取った。      

そして、若さというレッテルさえ飛び越えられる実力と独自の感性を持っている。

ヤナセ「幼稚園の頃から不登校で、人と違うってことは何か特別なんだろうなっていうのはあったんですけどね。みんな外で遊んでるとき自分だけ工作したり絵を描いたり。だからきっと、そういう芸術の方面で強いんだろうなって思って。けれど最近は本当に、ただ普通のことが人よりできないだけなんじゃないかって。バイトで働いている古着屋のレジ打ちを1年で外さたんです。仕事内容的にはアイロンかけてレジ打ちして服畳めばいいんですけどコミュニケーションが苦手だし、レジ計算の間違いを何度もしてたから、僕がミスしてないときもたぶん僕が間違えたんだろうってなるくらい仕事できないので。レジ外されてからは服畳むだけなんですけどそれでもうまく出来なくて。自分ではちゃんとやってるつもりなんですけど、やっぱちょっとヤバいみたいで。掃除機壊しちゃったりとか。それに、人にどうこう言われることも苦手だから、みんなから音楽以外はできないって言われるんですよ」

音楽以外はできないから、音楽でしか生きられない彼のことを天才とか、才能とかいう言葉を使って説明するのは短絡的でちょっと稚拙だ。ただ、彼のライブ・パフォーマンスには「天才」の言葉を抜きには表現し難いほどのまばゆさがあった。

けれど、彼は自分自身のやり方を、川を眺めるように語ることができる。

ヤナセ「自分の引き出しってそんなに多くないから手を動かすんです。夜はいつもMTRとギターで曲作ってるんですけど、まず適当にベースラインとかドラムとかを作ってから、適当にギターを弾くんですよ。自分が想像できる以上のことができるから、弾くっていうか触って音を出す、適当にジャジャッて。その中でたまに奇跡的にいい音が出るんです。そこだけ取ってきて広げると曲ができる。だからアレンジとかもほとんどそれです。適当に弾いたやつの中から面白いものを取ってきて、それをちゃんと弾いて繋げていってっていう。そうすると面白いことになるし、驚きがある。 曲を作れるときって調子がいいときとか気分がいいときとか気分が落ち込んだときとかじゃなくて、本当にわかんないんですよね。全然何でもないときにパッと、普通に過ごしてたらいけそうな気分になって、そしたら一日中朝までずっとやるみたいな。気分とか出来事とかも関係ない、不思議なんですけど。できないときは本当にできないんで、全く。だから魚釣りみたいなもんだと思って待ちます」

昨年12月5日に配信でリリースされた「海豚少年」はサビの前で一拍ミュートを置くギターロックバンド的な手法などに2018年の邦楽シーンへの批評を込めているという。

ヤナセ「いま売れてる音楽の中には、音楽よりも自分たちをどうかっこよく見せるかしか考えず音楽を『使う』アーティストもいると思います。誰がバンドやってるかっていう、音楽よりもキャラクターを重視するような。そういうフェスごと一度燃やしてしまいたいくらい、負けたくないっていうのはありますね。かっこいい音楽を作りたいっていうのはあるんですけど曲は曲として作りたいので、自分を無視して」

好きも嫌いも併せて強い想いのある邦楽シーンで、それでもポップスにこだわるのはなぜなのだろう。

ヤナセ「音楽が好きだからやってるんです。それに音楽で生活もしたいから。音楽っていうのはすごく無限だし他にないものだし、突き動かされるものがある。だから、とにかくやりたいことをやる。それに、もっとたくさんの人に聴いてもらう必要があると思うからポップスを作っています。ただやっぱbetcover!!っていいって言われないんですよね、なかなか。あんまり取り上げてもらえないですね。もどかしいんですよ、自分がいいと思ってやってるんですけど、まあいいよねみたいな、ぐらいなんだと思って、難しい。もうちょっと売れると思ったんですよアルバム。全く話題にならなくて誰もプッシュしてくれなかったし、タワレコの展開も少なかったし。何もなかったですね、だからそういうのがあって自分を信用してないっていうのがまだあって、もしかすると自分はすごくいいと思ってやってるけど、そんなことないんじゃないかって。ちゃんといい音楽だったら認められるはずなのに、よくないってことなのかな。最近そこに葛藤がありますね。認められなさ過ぎて。なんだかなと思って」

わたしは物心ついた頃から現在も荒川沿いに家がある。かつて地元の女友達三人全員と仲違いするまでの数年間、初日の出を見に、まだ暗い土手に集まった。

よあけ前の河川敷は瞬きの間に色を変えて美しく、耳も指も千切れそうなほどに寒い。

“臆病な洗濯物の流れがゆらゆら
大したことじゃないよ 
僕はいつもどおりさ”
「平和の大使より」

※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.05」に掲載されたものです。







Photo by Takuro Ueno

右:betcover!!
betcover!!こと1999年生まれ多摩育ちのヤナセジロウによるプロジェクト。中学生のときに作曲を始め2016年夏に本格的に活動を開始。8月1日に発売した5曲入り2nd ep『サンダーボルトチェーンソー』ではApple Music 「今週のNEW ARTIST」、Spotify「アーリーノイズ」に選出される。12月5日には両A面シングル「海豚少年 / ゆめみちゃった」を配信限定リリースした。2019年3月13日には初の単独公演「襲来!ジャングルビート’19」を渋谷TSUTAYA O-nestにて開催する。
https://twitter.com/betcover_tokyo

左:石山蓮華
女優。埼玉県出身。日本テレビ「ZIP!」にレポーターとして出演中。主な出演作は、映画『思い出のマーニー』、舞台『遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-』、テレビ『ナカイの窓』など。趣味は電線、配線の写真を撮ること。Rolling Stone Japanで音楽ライターとして活躍中。
https://twitter.com/rengege

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