ジェイムス・ブレイクが新作『Assume Form』で到達した、動的で生命力に溢れたサウンドの正体

ロザリアとの共演曲も含めて、『Assume Form』はどの曲もメロディアスで、印象的なフレーズやうわものをループさせていて、歌メロ以外にも常に旋律(のようなもの)が鳴っているのも特徴的だ。冒頭のタイトル曲でのピアノに象徴されるように、どの曲でもキャッチーな旋律やリズムが繰り返されており、ひとつのループを軸に、アンサンブルを組み立てているような作曲法に変わってきたような印象も受ける。「Into The Red」のような曲は、その最たる例かもしれない。



また、これまでの作品ではシンプルなピアノの弾き語りを軸にした曲が目立ったが、本作では自身の歌の伴奏としてピアノを演奏するようなフォーマットの曲は見当たらず、ピアノが鳴っていても基本は旋律のループで、歌に対して従属してはいない。そんなふうに、全てのサウンドが等価に使われているのも象徴的だ。

そして、いくつかのループされたシンプルで美しい旋律が、時にビートメイカー的なそっけなさを伴う非機能的な響きで重なりあいながら歌メロを彩り、独特の情感を生みだしている。この辺りは、様々な楽器や自身の声をその場で吹き込みループさせ、即興的にトラックを組み立て、その上に歌を乗せるパフォーマンスを先の来日公演でも見せてくれたモーゼス・サムニーの音楽性とも通じるものがあるだろう。

元を辿れば、モーゼスが脚光を浴びるきっかけになったのはブレイクのカバーがきっかけだった。そんな彼が『Assume Form』の収録曲「Tell Them」で起用されたのは、かつてブレイクがジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)と共作した時と同じように、自分が今やりたい音楽に近いことをやっているモーゼスへの共感ゆえでもあるのだろう。そう思わずにいられないくらい、『Assume Form』では「音の重なり」が重要なテーマになっているように映る。



モーゼス・サムニー「Rank & File」の多重録音ライブ映像

これまでのブレイクは、隙間を活かした引き算的なスタイルで、音数の少なさがそれぞれの音の研ぎ澄まされたディテールを際立たせていた。彼は少ない音をパズルのように組み合わせ、それらの音色や音域のコントラストを際立たせることで特異な音楽を生み出していたように思う。

ところが、『Assume Form』では、過去のアルバムにあったような空間や隙間を作っていない。これまでの彼に比べるとかなり多くの音数と音色のバリエーションが用いられており、それらの音の重なりによる流れるような動きのある音楽はブレイクのパブリックイメージとかなりかけ離れたものといっていいだろう。ただ、多彩な色のパレットを絶妙に混ぜ合わせ、緻密に編み込むように楽曲を書く姿は、(例えば、オーケストラのために譜面を書くような)古典的な意味での「作曲」なども視野に入れているようにも見える。こういった『Assume Form』での変貌ぶりは、前作までのビートメイカー/プロデューサーから(シンガー・)ソングライターへの変化を経て、コンポーザーとしての大きな飛躍ぶりを示しているとも言えそうだ。

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