─『Cheyenne』ではギターやベースから、コントラバス、トランペット、クラリネット、ホルン、タブラ、TR−808まで、すべてコナーが自分で演奏/多重録音しているそうです。柳樂:ローファイでオタクっぽい音楽性ですよね。それに「ひとり感」が半端ない。「ドラムだけ友人のミュージシャンに叩いてもらった」とかじゃなくて、完全に全部ひとりでやっているわけじゃないですか。彼が好きなようにサウンドを組み立てているから、ちょっと変な音像になっているんですよ。同じくひとり多重録音がベースになっているカート・ローゼンウィンケル
『Caipi』とかもそうなんだけど。あと、音楽の作り方はDIYなんだけど、サウンド自体は妙に開かれていて。いわゆるベッドルーム録音っぽい感じがまったくしない。
─その話でいうと、このアルバムは世界中を旅したコナーが、その道中で受けた影響から曲作りが進められたそうです。柳樂:ひとりで作っているのにクローズドな感じがしないのは、旅をしながらアイディアを練ってきた影響も大きいんでしょうね。同じ宅録のひとり多重録音でも、ポール・マッカートニーの『McCartney』やエミット・ローズ、初期のベックでもいいけど、そういう昔ながらのDIY作品とは音像がまったく違う。もっとサウンドスケープっぽいというか、幻想的で広がりがある感じがします。強いて挙げるならシュギー・オーティスとか?
ポール・マッカートニーの1970年作『McCartney』収録曲「The Lovely Linda」シュギー・オーティスの1974年作『Inspiration Information』収録曲「Island Letter」─自分の殻に閉じこもるのではなく、どこにもない架空の世界を探してる感じがしますよね。例えば、ボン・イヴェールのデビュー作『For Emma, Forever Ago』には“山小屋で作った失恋アルバム”という切ないバックグラウンドがあったわけですが、コナーの場合はそういうナイーヴな感じが希薄というか……。柳樂:すごくリア充っぽいでしょ。ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイク、フランク・オーシャンには、あんまり幸せじゃない人に寄り添う音楽みたいなところがあるけど、コナーの場合は誰にも寄り添ってない感じがする。むしろ、思い切り人生を満喫していますよね。『Cheyenne』のジャケット写真でも隅っこの方でピースしてるし(笑)。
─たしかに、「今が人生で一番ハッピー!」って感じのピースですね(笑)。柳樂:このジャケは秀逸ですよ、湖と山の構図もいいし。
『Cheyenne』のジャケット写真─コナーがちっちゃく写ってるのも今っぽいですよね。自分よりも風景をアピールしているというか。昔のシンガー・ソングライター作品だと、主役が真ん中にドンっと写っていたじゃないですか。柳樂:Twitterよりもインスタ映えを気にしている感じね。そこもリア充っぽい(笑)。