マイケル・ジャクソンを告発した2人と監督が語る、この映画を作った理由

映画を作るにあたって、個人的な目的は何でしたか? 区切りをつけて前に進みたいという気持ちでしょうか、それともほかの人々に自分の体験を聞いてもらいたいという思いですか?

セーフチャック:(映画の構想を練り始めたのは)MeToo運動の前だった。だから、あまり期待しないようにした。今でもそうだよ。きっとみんなからこき下ろされるだろうということはわかってたから、世間に信じてもらおうとか、支持してもらおうなんてことは期待していなかった。僕の関心は他の被害者のことだけ。彼らがこの語を聞いて、自分を重ねてくれれば、僕にとってはそれで十分だった。淡い期待を抱いて、あとからしっぺ返しを食らうのは嫌だからね。その後に起きたこと、人々が映画に注目してくれたことは――まさか、みんなが注目してくれるなんて思ってもいなかったからね。見向きもされなかったかもしれない。どうなるかさっぱり分からなかった。こんなに注目されて、みんなが虐待について理解を深めてくれるなんて――予想外だよ。すごいことだ、だけど本当に想定外だったんだ。

ロブソン:ああ、性的虐待を経験して必死に立ち直ろうとする経験は、僕であれジェームズであれ、他の人にとっても、とても孤独な経験なんだ。僕自身何度も、おかしいのは自分で、理解してくれる人なんていないと考えた。ものすごく孤独な気分だよ。性的虐待を受けて大人になった人々を支えるサポートグループに参加したことがあるんだけど、ひとつの部屋にみんなで輪になって座って、自分が受けた体験を話すんだ。そこで自分が正しいと認めてもらうことで、ものすごく救われた。そのとき、「ああ、他の被害者のために、こういうことを映画で出来ないだろうか。学校の先生や親、保護者にあたる人々を防止に駆り立てることはできないだろうか?」って思ったんだ。

MeToo運動やTime’sUp活動が起こったことで、ハーヴィー・ワインスタイン騒動前にダンが映画を構想した時とは時代が変わりました。映画の公開が数年前だったとしたら、反応は違っていたと思いますか?

ロブソン:もし映画の公開が2年前だったら、全然違う反応だった可能性はあるね。この数年、間違いなくMeToo運動で社会の意識は大きく変化した。それはいいことだ。みんなが前よりも口に出すようになったんだから。あらゆる性的虐待が絶えない理由はここ、沈黙と闇なんだ。これを変える唯一の方法は、口に出すこと。周知のとおり、汚らわしく、恐ろしいことだから、誰も語りたがらない。人間性の闇の部分だ。だけど、だからこそ僕らは語るべきなんだ。

どうすれば自分たちに起きた恐ろしい出来事から、いい行いができるだろう? 僕らがエステートやジャクソン家の批判の矢面に身をさらけ出したことがいい例だよ。「そう、これがまさに、あちこちでいる虐待の被害者の身の上に起きていることなんですよ」とね。彼らは信じてもらえず、再び心に傷を負うんだ。子どもたちを守る前に、まずは対話の在り方や考え方を変えるべきだ。

セーフチャック:この2年で世間の理解は大きく成熟した。ジャクソン・エステートがこれまで取ってきた戦術は全部とんでもないということが分かってもらえたんじゃないかな。この事件について理解を深めてもらうことで、より多くの人が被害者のことを理解して、オープンになってくれるといいね。そういう意味でMeToo運動にはとても助けられた。本当に予想外だった。ドキュメンタリーを作ろうと決めたのはMeTooが起きる前だったからね。名乗り出れば、袋叩き似合うだろうと思っていたんだ。

最近では、マイケル・ジャクソンを「抹消」するべきだという記事や、あれだけ影響力があって誰もが知る人物を抹消することなどできるのか、という記事が数多く見受けられます。お二人の見解はいかがですか?

セーフチャック:一連の「アーティスト抹消」の流れは比較的最近のことだ。まさかこんなことが起きるとはね。僕は、世間が決めることだと思っている。双方の言い分を聞いた今、みんながそれぞれ自分たちで決めればいいと思う。他人の意見をどうのこうのするつもりはないよ。ただ、僕は彼の音楽をもう聴くことはできない。みんながそれぞれ自分で決めればいいと思う。

ロブソン:抹消するっていうのは前向きじゃないと思う。起きてしまったことは取り消せないからね。自分に起きたことを取り消せたら、と思うけれど、実際はできない。どんなに僕が頑張っても――我々全員が頑張っても――こういうことは今後も起きるだろう。そのとき僕らは声を上げて、物事の両面性に向き合うべきなんだ。彼は偉大なソングライターで、ダンサーで、パフォーマーで、チャリティ活動にも熱心だったけど、同時に子どもを性的に搾取する悪の一面もあった。受け入れるのは難しいけれど、どちらも真実なんだ。

Translated by Akiko Kato

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