デスメタルが30年経てもなお衰えない理由

モービット・エンジェル同様にカンニバル・コープスも過去の曲を演奏するが、彼の場合は控えめで、90年代初期の『The Bleeding(原題)』や『殺鬼〜トゥーム・オブ・ミューティレイテッド』から1曲ずつ披露する程度だ。カンニバル・コープスのセットでは毎回お馴染みなのだが、「Hammer Smashed Face」は『The Bleeding』収録のある曲のあとに演奏される。この曲は前のボーカリスト、クリス・バーンズ作詞の女性嫌悪の暴力を不快な言葉で描いたもので、ほとんど発展しなかった曲だ。しかし、コープスグラインダー時代になり、バンドは「Hammer〜」の前に演奏する曲の凶暴さを劇画タッチに変化させ、木曜日のライブでは血に飢えたゾンビが狩りをしまくる曲「Kill or Become(原題)」にして、リフレイン部分「Fire up the chainsaw! Hack their fucking heads off!」を観客とともに陽気に歌ったのだった。

2018年12月に窃盗強盗と暴行容疑で逮捕されたカンニバル・コープスのギタリスト、パット・オブライエンについて、今回のライブで彼らが一切言及しなかったことは大した驚きではなかった。また、現在ヘイト・エターナルのリーダで、かつてモービット・エンジェルのメンバーだったエリック・ルタンがオブライエンの穴を完璧に埋めていたのも自然だった。ルタンこそが、近年のカンニバル・コープス作品を最高のサウンドに導いた張本人なのだから当然だろう。首がへし折れるほどにヘッドバングしてしまうリフを繰り出し、コープスグラインダーとともに歌詞を口ずさみ、このセットのギターソロの大部分を弾きこなしたルタンは、現在の彼の姿を余すことなく観客に印象づけたと言える。デスメタル屈指のバンドの一つであるカンニバル・コープスと同世代のミュージシャン仲間であり、昔からカンニバル・コープスのファンだったルタンは、この夜の短い共演を思う存分楽しんだのだった。

出演バンドは最初から最後までソリッドだった。トリオのネクロットは一切の無駄を削ぎ落とし、臆面もないほどにレトロなデスメタルを披露し、ブラッド・インカンテーションは特筆すべきステージを披露した。コロラド州デンバー出身のこの4人組のレコードの演奏はソリッドなのだが、ライブでの彼らは驚くほどタイトで印象深い。2015年のデビューアルバム『Starspawn(原題)』収録の1曲を紹介するフロントマンのポール・リードルが「宇宙で死ぬことを歌った曲」と紹介したように、サイエンス・フィクションとオカルトを組み合わせたテーマを、音楽的な専門知識と騒々しいヘッドバンギング要素を上手くブレンドしたサウンドで奏でている。彼らは過去から現在までデスメタルを維持してきたすべての要素を楽しんでいるようだ。リードルと同バンドのギタリスト、モリス・コロンタースキー(要チェック㊥)は、B.C. Richのアイアンバードのトレイ・アザトース・モデルを自慢げに弾きながら、彼らが選んだジャンルの歴史を築いてきた先人たちに最大の崇敬を表しつつ、このジャンルを今後も発展させていく意志を示していた。

どのバンドも気軽に取材に応えることはなかったが、スティーヴ・タッカーだけは一瞬言葉を発し、「デスメタルのライブをこんな会場でやるなんてね」と、会場を見渡しながら驚いた様子だった。ここで取り上げたバンドも、彼らが築き上げてきたシーンも、メインストリームのレーダーに引っかかることはないかもしれない。しかし、先日ライブを見た限りでは、誕生から30年を経たこのシーンは過去を懐かしむだけに留まらず、現在も十分な活気を維持していると言える。それこそがクラシック・ロックと呼べる所以なのだ。

Translated by Miki Nakayama

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