アルゴリズムがアーティストに? ITスタートアップによるAIがワーナーと契約

Endel社の開発チーム(Endel)

オーディオ系スタートアップ企業Endel社が開発したコンピュータープログラムが、ワーナーミュージック・グループとすでに契約済み、年内に20枚のアルバムをリリースする予定 だ。

ワーナー・ミュージック・グループのアーティスト・ラインナップに、このほど新たな顔ぶれが加わった。エド・シーラン、マドンナ、コールドプレイ、カミラ・カベロの仲間に加わったのは、なんとコンピュータープログラム。すでに年内に20枚のアルバムをリリースする契約を結んでいる。

アルゴリズムを開発したのは、サウンド系スタートアップ企業のEndel社。人工知能を使ってユーザー一人一人に合わせたサウンドを作り出し、気分を盛り上げたり生産性を向上させることを目指している。Edel社は1年ほど前、ヨーロッパで創設された。新進気鋭の企業として、2018年にはTechstars Musicのスタートアップ・アクセラレータープログラムにも参加している。2か月前、ワーナーに新設されたアート・ミュージック部門がEndel社が開発したテクノロジーと契約を締結。アルゴリズムを相手に、音楽流通、出版までカバーするレコード契約を結んだ世界初のケースとなった。20枚のアルバム契約のうち、すでに5枚がリリース済み。不安を解消する「睡眠サウンドスケープ・コレクション」5作品が(『Clear Night』『Rainy Night』『Cloudy Afternoon』『Cloudy Night』『Foggy Morning』)AppleMusicやSpotifyなどで絶賛配信中だ。

AmazonのAlexaファンドや日本の総合商社エイベックス、メイジャー・レイザーのメンバージリオネアなど投資家となっているEndel社。同社の専門とするのは、時間帯や位置情報、心拍数などの生体情報といった個人情報をもとに、オーダーメイドの「オリジナル可聴周波数」を生成すること。「みなさんの1日の流れを理解して、生活環境全体を作り変えたいのです」と、Endel社のCEO兼共同創設者のオレグ・スタヴィツキー氏はローリングストーン誌の取材に答えた。Endel社のコアアルゴリズムは、何千もの音源を使って、ユーザー情報をもとにいくつものテンプレートを作成する。同社が今週AmazonのAlexaスキルストアにリリースした新機能では、ユーザーがAlexa対応デバイスからカスタマイズされたサウンドを受け取ることができる。最終的な目標はさらに壮大だ。スタヴィツキー氏が思い描家がいているのは、ハードウェアとソフトウェアが双方向通信するエコシステム。そこではドライブ・パターンやカレンダーの行事数といった測定指数からEdel社がユーザーの1日のリズムを割り出し、各人の好みに合わせたサウンドスケープを自動的に生成して、1日の終わりにほっと一息つく手助けをしてくれる。

レコード契約は、たなぼたに過ぎない。「ワーナーのほうから打診があったんですが、最初はためらいました。僕らのやっていることは真逆ですからね」と、Endel社の共同創設者でサウンドデザイナーのディミトリー・エフグラーフォフ氏はローリングストーン誌の取材に答えた。「僕らのコンセプトは、リアルタイムで、かつ環境に適応したサウンドスケープを作ること。でもワーナーは『そうですよね、でもアルバムも作れるでしょう?』という感じだった。それで、まずは実験としてやってみることにしたんです。ワーナーのようなレーベルが接触してきたら、『まぁやってみるか』と言う他ないでしょう」 残る15作のテーマは、集中力アップ、リラクゼーション、「お出かけ」モード。今年1年かけてリリースされる予定だ。20作ともすべてEndel社のコアアルゴリズムによって生み出される。すなわち、エフグラーフォフ氏がいうように、どのアルバムも事実上「すべて、ボタンひとつで作られるのです」。

Translated by Akiko Kato

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