キース・リチャーズ、ソロ・デビューから30周年記念盤を発売 「大切なもの」を歌う名盤

ナイトクラブ、マーキーでザ・エクスペンシヴ・ワイノーズと演奏するキース・リチャーズ(Richard Young/REX/Shutterstock)

30周年を迎えたキース・リチャーズのソロ・デビュー・アルバム『トーク・イズ・チープ』をローリングストーン誌がレビュー。キースのロックンロールのルーツをたどりながら、彼が過ごしたすばらしい時代を思い出させてくれる『トーク・イズ・チープ』デラックス・エディションだ。

80年代中頃、キース・リチャーズとミック・ジャガーの仲はバンド史上最悪でミック・ジャガーはソロ活動に目を向けていた。「ミックにはもう我慢できなくなり始めていた」とリチャーズは2010年の自伝『ライフ』に綴っている。1983年の『アンダーカヴァー』や1986年の『ダーティ・ワーク』が時代の流れについていこうとしただけのパッとしない作品であったことからも彼らの間にある亀裂を感じることができる。

1988年、リチャーズはストーンズのスケジュールの空き時間を利用して、ギタリストのワディ・ワクテル、キーボーディストのアイヴァン・ネヴィル、ドラマー/プロデューサーのスティーヴ・ジョーダンなど腕利きミュージシャンを揃え、ザ・エクスペンシヴ・ワイノーズと名付けたバンドとスタジオに入った。その作品の出来はすばらしいものとなった。それがソロ活動を当時まだしていなかった60年代を象徴する最後の1人とも言える彼のソロ・デビュー作であったということだけでなく、このアルバムでは彼のメインのバンドに欠けていたエネルギーが解き放たれていたのだ。ローリングストーン誌のシニアライター、デイヴィッド・フリッケはレビューで「“期待はずれ”の傑作」と書いた。

MTVの時代に迎合するために打ち込みドラムを使ったり自分の歴史を否定するようなアルバムを作らざるを得ないと多くのミュージシャンが感じていた中、『トーク・イズ・チープ』は中年ロッカーの作品としては珍しいものであった。『トーク・イズ・チープ』からのシングル1曲目、生っぽさや空間を感じられ、叫ぶようなバッキング・ボーカルが入った「テイク・イット・ソー・ハード」はガレージ・ロック的な勢いを持ちながらMTVでもオンエアされ、そのどちらをも達成していた。「ストラグル」は緊張感、疾走感がありギターがその存在感を誇示している。「ハウ・アイ・ウィッシュ」は80年代のザ・ローリング・ストーンズのシングルの理想像から不要な当時のサウンドを取り去ったような曲である。「ユー・ドント・ムーブ・ミー」の典型的なリチャーズの荒々しいリフと怒りの歌詞は内部の確執をほのめかしているように感じる(「なぜ自分には誰も友達がいないと思うんだ」と彼はリアルな怒りで歌っている)。

Translated by Takayuki Matsumoto

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