アリアナ・グランデ、ポップカルチャーからの引用をちりばめた最新ツアーレポ

そのあとは、「ブリージン」で始まるしっとり聴かせるセクション。グランデはこの日一番のヴォーカル・パフォーマンスで、トラウマや不安に直面した時にこそ自分を大事にして、という誠実な励ましのメッセージを巧みに歌い上げた。その後何曲か続いた後、最大の見せ場が「fake smile」。場違いなパーティにいるという設定でグランデは舞台女優並みの演技力を披露した。他にもコント仕立ての演出があったが(「bloodline」での宝石強盗のドタバタ劇など)、ウケはイマイチ。でもまぁ、腹八分目ぐらいがちょうどいい。

ショウの後半で、グランデはようやく初期2枚のアルバムを取り上げた。『ユアーズ・トゥルーリー』の中から「ライト・ゼア」「ユール・ネヴァー・ノウ」、間髪入れずに『マイ・エヴリシング』のバラード「ブレイク・ユア・ハート・ライト・バック」へ。高評価を受けている最新作と比べるとやや見劣りがした。メドレーの後は「NASA」。ここでアリアナは “七輪指”と書かれた手のひらで、観客のハートをふたたびつかんだ。


Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Ariana Grande

会場の雰囲気が一変したのは、『スウィートナー』からの1曲「グッドナイト・アンド・ゴー」の時だった。彼女のお気に入りの英国人アーティスト、イモージェン・ヒープをイメージした曲だ。落ち着いて大人びた表情を見せていたスターは、とたんに取り乱した。彼女の声は震え、サビでは泣いているようにも見えた。照明が暗くなり、一人たたずみながらピット中央のサブステージで歌うグランデ。取り囲むファンが励ますように彼女と一緒に歌う。このあとグランデは再び衣装チェンジでステージを去り、「in my head」が大音量で流れた。彼女がこの曲をステージ上で歌うつもりだったのか、それとも単なる幕間の1曲なのかは分からない。いずれにせよ、グランデがステージ上で思わず感情をあらわにしたのは確かだ。ステージに戻ったグランデが、「ワン・ラスト・タイム」だったことからもよくわかる。マンチェスターの爆弾事件後、ファンにとっては応援歌のような1曲だ。

コンサートの終盤は、ダンスポップのオンパレードの集中攻撃。「イントゥ・ユー」「デンジャラス・ウーマン」「ブレイク・フリー」「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」など、どんなダンスフロアも盛り上がること間違いなしの曲ばかり。しかも、アーティスト本人が立て続けにパフォーマンスするのだから、なおさらだ。「ノー・ティアーズ」の直前、グランデはこの日最も多く観客と言葉を交わした。観客全員に心からの感謝を述べ、これ以上口を開くと泣き出しそうだわ、と言った。

アンコールでステージに現れたグランデは、ここでサウンドトラブルに見舞われた。マイクから音が出なかったのだ。幸い、『thank u, next』の歌詞を知らない人はそう多くなかったため、観客が再び助け舟を出した。新しいマイクを手にした彼女2番の歌詞で追いつき、失態をものともせずランウェイをスキップ。再び『ファースト・ワイフ・クラブ』を引用し、ラストシーンを模したダンスで幕を閉じた。グランデ本人にとってはかなり不完全燃焼だっただろうが、恋愛でのコミュニケーション不足を歌った曲でマイクトラブルが起きたとは、なんとも傑作だ。彼女は20代中盤に多くの浮き沈みを経験し、それらはおおっぴらに公表されてきた。もし彼女から学ぶことがあるとすれば、自分にできることはただトラブルを認めることだけ。できるところまでリカバリーしたら、「thank u, nextショウ」と言ってやればいい。

Translated by Akiko Kato

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