ボブ・ディランの孫・パブロがフォークシンガーへ転身 その野望を語る

ー姓を他の名前に変えようと考えたことはありますか? あまりに大きなプレッシャーを伴うと思うのですが。

考えたこともないよ、それが僕の名前なんだからさ。家柄は家柄でしかない、今はそう思ってるし、そこから逃げるつもりはないんだ。僕は祖父のことが好きだし、それって孫として当然のことだよ。彼が成し遂げたことには、心の底から敬意を表してる。でも僕は僕だからね、自分以外の誰かになろうなんて思わないよ。自分に宿命があるとすれば、自分自身でいることだと思ってる。名前を変えるなんてことは、そもそも自分の意思で決めるべきじゃないと思う。いろんな事情があって名前を変える人もいるけど、僕にそんな選択肢はないんだ。

ー出会った人々に懐疑心を抱くことはありますか? あなたの家柄を理由に近づいたんじゃないかと思ったりはしませんか?

思ってしまうね。僕は小さな頃から知ってる仲間たちと今もつるんでいて、積極的に新たな出会いを求めていくことは少ないんだ。家族みんながそうなんだけど、僕は内向的な人間なんだよ。

ー内向的ながら取材に応じ、自身の音楽を世に広めようとしているわけですが。

たくさんインタビューをこなしてきたことで、どう対処すればいいか分かってるからね。すべてのインタビューが君みたいにいい人じゃないってことも知ってる。




ーあなたの祖父のことにしか触れない人もいると思います。

あまりにもひどい時は取材を中止してるよ。宣伝やお金目的で家族のことを世間に晒すなんて最低だから。(トルコ大統領の)エルドアンから金をもらって母国を売り渡したマイケル・フリンみたいにはなりたくないからね。あいつはクソ野郎で裏切り者さ。

ー去年気になったアーティストはいますか?

すごくハマッたのがあるよ。暗室でサン・ハウスが演奏してる映像なんだけど、過去数カ月で1000回以上観たと思う。天国で鳴ってる音楽があるとすれば、きっとこんな感じだろうって。

ーミュージシャンとしての目標は?

世界一ビッグなスターになりたい。あとはずっと曲を書き続けることかな。次のプロジェクトは今取り組んでるやつよりもすごくなるよ。アメリカがテーマなんだ。

ーコンセプトアルバムということですか?

ちょっと違うね、もっとリアルなものだよ。あちこちのバーで演奏してた頃、僕はいろんな物語に出会った。農家が中心の町と大都市じゃ、同じ演奏でもまったく違う経験になるんだ。同じ場所に止まっていたんじゃ、そういうことにはきっと気付かない。僕はそのことを伝えたいんだ。

ー影響を受けたアルバムを幾つか挙げてもらえますか?

ロバート・ジョンソンはいつも聴いてるね。彼の歌とギターは誰にも真似できないと思う。声とギターが溶け合っていくようで、どっちがどっちだか区別がつかなくなるんだ。あとはチャーリー・パットン。彼のリズムはニューヨークを走る列車の線路を思わせるんだ。だからこの街にいると、至るところで彼のリズムを耳にするよ。列車が通るたびにね。あとハンク・ウィリアムスも大好きだよ。

ーあえて言いますが、それらはまさにあなたの祖父が駆け出しだった頃に影響を受けていたアーティストです。

そうだね。でも彼はカニエやトラップは聴いてなかったはずだよ。

ーあなたの祖父の曲の中でお気に入りはありますか?

あらゆる曲が素晴らしいと思う。彼のレコードは全部好きだよ。

ー他に尊敬する人物は?

ユリシーズ・S・グラントだね。

ー本当ですか?

もちろんだよ。荒野の戦いに臨んだ彼は、「何が起きようとも、後戻りはできない」と記した手紙をリンカーンに送った。彼は囚われた奴隷たちを解放するために、身を呈して戦い続けた。この国の歴史において、彼の功績は最も偉大だと僕は思ってる。

ー多くの人間がリンカーンに、グラントはアル中で信用ならない人物だと進言していました。

同じことを主張したある人物に向かって、リンカーンはこう言ったらしいよ。「彼が好むウィスキーを突き止めろ。そして同じものを全ての将軍のところに送るんだ」リー将軍が率いる南軍との争いにおいて、彼は当初かつてない苦戦を強いられてた。毎朝のように「昨日我が軍の将官がまた1人命を落としました」っていう報告を受けながら、彼は「わかった。もう一度攻撃を仕掛けろ」って命令してたんだ。そして次第に、彼の軍が優勢になり始めた。彼が本当の実力を発揮するのは、ゲティスバーグの戦いの後なんだよ。

ー歴代の大統領による回想録の中でも、彼のものは最高峰だとされています。

そうだね。執筆はマーク・トウェインが担当したんだ。確か彼は同時期に『ハックルベリー・フィンの冒険』を書いてたはずだよ。

ーホメロス、チャーリー・パットン、グラント…どれも23歳の青年が興味を持つ対象とは思えないのですが、どういった経緯で関心を持つようになったのでしょうか?

さっきも言ったけど、僕は彼らのような存在になりたいんだよ。エドガー・アラン・ポー、ロバート・ジョンソン、エイブラハム・リンカーン、僕にとってはどれも等しく重要な存在なんだ。アメリカの発展に貢献し、歴史に名を残したっていう点においてね。共和党政権が永遠に続けばいいと思ってるけど、そうじゃなかったとしても、ずっと先まで語り継がれるのは彼らの言葉なんだよ。リンカーンと彼に続いたトウェインは、まるでアメリカンっていう言語が存在するかのごとく言葉を紡いでみせた。僕はリンカーンが残した書物を隅々まで読んだ。あらゆる言葉と文章に深い意味が宿っていて、無駄な要素が全く存在しないんだよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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