ヒット曲は皆で作るもの? ポップチャート上位曲が単独名義の作曲ではない理由

しかし、時は常に変わる。現在イギリスで最もホットなアーティストの呼び声が高いソングライターがいる。サム・フェンダーだ。彼は現代の音楽業界では希少な存在である。メジャーレーベルと契約しているにもかかわらず(イギリスではポリドール、アメリカではインタースコープ)、すべての楽曲が自作なのだ。現在22歳のフェンダーはイギリス北部ニューキャッスル近郊のノース・シールズで育ち、誰もがほしがるブリット・アワード批評家賞を最近受賞した。過去にこの賞を授与されたのはアデルやサム・スミスといった世界的に大成功したアーティストである。

フェンダーのマネージャーであるオーウェン・デイヴィスは、キャリアをスタートしたばかりのフェンダーが成功した背景には、労働者が住む町で育った自分の人生をありのままに描写して音楽の中でさらけ出している点もそうだが、彼のソングライターとしての非凡さも重要な要素だと言う。「楽曲の共同制作に異論はないし、この業界ではそういうやり方も重要だ。しかし、サムが書く思いをストレートに込めた歌詞は、聴く者にしっかりと伝わるのだ。これこそが間違いのない真実だ。彼の曲は彼の生活や人生に深く根付いた物語なのだから」と、デイヴィスが説明する。

次に登場するマイク・スミスはイギリスの主要音楽出版社ワーナー・チャペルの代表取締役社長だ。彼がこれまで契約してきたアーティストの中にはカルヴィン・ハリス、マーク・ロンソン、ブラー、アークティック・モンキーズなどがおり、彼らは自分の楽曲を自作するアーティストばかりだ。しかし、現在のスミスの仕事の大きな部分を占めるのが、曲作り集団とマルチライターによるポップス・コラボレーションである。そんな彼に2019年の現在、なぜ「完全なソングライター」が絶滅の危機にひんしているのかをきいてみた。

「現在の音楽ビジネスには一切の逃げ場がない」とスミスが切り出した。これは、SpotifyやYouTubeなどで表示される音楽配信回数が好き嫌いを瞬時に知らしめる現状を指している。「成功を勝ち得るにはできるだけベストに近い楽曲を作ることしかない。だから近年のレコード会社では、A&R担当者が間に入って何度も関係者と連絡を取りながら、可能な限りベストな楽曲に修正していくわけだ」と述べた。

しかし、スミスは「私個人としては完全なソングライターが出現することを心底望んでいる。そういった状況こそが楽曲の特異性や独自性を担保するのだから」とも語った。

最後に、自分の楽曲は他人任せにしないを信条にしているこだわりのミュージシャン、つまりノエル・ギャラガーの言葉でこの記事の締めるべきだろう。「ソロアーティストとして、俺は自分の内側から生まれる音楽が重要だと思う。そうじゃなきゃ、曲にどんな意味があるっていうんだ?」。これは彼が去年言った言葉だ。「(自分のじゃなきゃ)他人のメロディであり、他人の歌詞だ。それでもいいなら異論はない。そうやって生計を立てればいい。でもそんなやつに音楽について語ってほしくないね」と。


・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。

Translated by Miki Nakayama

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