証拠がなくても一斉捜査、米警察当局が性労働者を狙う理由

警察当局が人身売買を理由に、同意の有無にかかわらず、性労働者を一斉捜査するケースは珍しくない。「クラフト氏の事件で警察が人身売買の証拠を見つけられなかったと聞いても、全く驚きません」というのは、ピッツバーグ・シティペーパー紙のコラムニストで、人権保護団体SWOPピッツバーグ支部を創立したジェシカ・セイジ氏。「現在の政治情勢では、買春・売春に対するモラルパニック(特定の社会集団に対する恐怖や嫌悪感)を引き起こすのに、人身売買という言葉が手っ取り早いんです」。セイジ氏は、今回の事件が起きたのは、現代社会が性風俗と性的人身売買を混同しているせいだと考えている。「これまでのフェミニストの意見では、女性は風俗に決して同意しないと思われていました……ですからたとえ事実ではなくとも、みな人身売買されたのだ、という考えが今も性風俗に対する世論に影響を及ぼしているのです」

フロリダのマッサージ店の捜査に関し、警察では逮捕した女性が人身売買の被害者だと特定するのに手こずったようだ。マーティン郡のウィリアム・スナイダー保安官もCNNの取材に対し、何度も女性に「なぜ人身売買されたのか」と質問を繰り返したが無駄骨に終わったと語った。「彼女たちはその気になれば、店を出て助けを求めることもできました」と保安官。「ですが、そうしませんでした」。 雑誌Reasonのエリザベス・ノーラン・ブラウン記者による当時の記事によれば、警察は彼女たちが自発的にこの仕事に従事していたと見なすのではなく、「ほかに説明があるはずだ」として調査を続けているようだ。

このような逮捕は、移民、特にアジア系移民の性労働者らが標的になることが多い。元性労働者でSWOP全米本部のサヴァンナ・スライ理事長は2016年、シアトルのマッサージ店で同様の一斉検挙がおこなわれた際にこのような声明を発表した。「渡米した女性がエスコート嬢として働いているからと言って、必ずしも強要されているとは限りません。こうした推測は、明らかに人種差別、外国人差別に当たります。風俗業や家事労働、農業に携わる移民労働者の多くは、自らの意思で移住し、働いているのです。そうすることが、自国で起きている貧困、犯罪、家計の問題、戦争といった問題に対する最善策である場合がほとんどなのです」と、スライ氏。セックスワーカーの権利擁護派たちも、こうした一斉検挙は最終的に性労働者の生活を危険にさらすことになりかねないと主張している。

Translated by Akiko Kato

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