ボズ・スキャッグスが語るAOR黄金期、ブルースの再発見「ヨットロックは大嫌いだ」

―ここ10年以上、さまざまなジャンルのルーツを徹底的に掘り下げた一番の理由は何ですか?

クリエイティブな仕事をしている人間ばかりでなく、あらゆる立場の人たちに人生の中で必ず気づきの瞬間が訪れると思う。それこそ、自分が来た場所に戻り始めるとそうなる。自分はいわゆる田舎者だった。オクラホマとテキサスの片田舎にある小さな町で育った。そこにはブルースがあった。まずはそこから話を始めよう。ブルースは進化する音楽の一部だったし、そこを入り口にして、私はさまざまな音楽スタイルやフォームを発見していった。つまり、現在はそうやって自分を音楽へと導いた出発点に戻ろうとしているわけだよ。出発点にあったもののエッセンスに戻ろうとしている最中だ。つまり、初めてリトル・リチャード、チャック・ベリー、エルヴィス・プレスリーを聞いた自分の形成期にね。あの頃に聞いたものは人生を変えてしまうほどの衝撃を与えたのだから。あの当時に戻って、あの頃にあったものの本質を見つめるのは興味深い作業だよ。

―ブルースのアイコンの多くがすでに他界しているため、あなた自身がこのジャンルの長老的存在、もしくは優れた指導者という感じもします。

ここしばらく自分が行っている作業を「これはある種のキャンペーンだ」みたいに考えたことは一度もない。それに、一つの音楽フォームを生き長らえさせるために積極的に活動しているつもりもない。ただ、これは以前の私には決して達成できなかったことだ。ボビー・ブランドの曲は初めて聞いたときからずっと、普段ふとしたときに鼻歌で歌ったりしていている。ティーンエイジャーの頃からずっと彼の歌が頭の中で再生され続けているわけだ。でも、これまでの私には彼の歌を表現できる声がなかったから、この領域に触れることができなかった。ところが、現在の私はボビー・ブランドを歌うことができると感じている。やっと自分が子供の頃に感じたボビー・ブランドの表現に似た何かを、ほんのちょっとだけでも、自分の歌声に乗せることができるようになったと思う。自分の歌にしたとみんなは言ってくれるけどね。



―近年リリースした数作品に共通するのは選曲の妙です。ブルースであれ、R&Bであれ、スタンダードであれ、これまで何度もカバーされた楽曲ではなく、デューク・エリントンの「Do Nothing Till You Hear From Me」のように、もっと深みのある楽曲を選んで取り上げています。選曲はどのように行っていますか?

キーワードは「興味深さ(interesting)」だ。過去に何度も人が分け入って踏み固められた道からはずれた曲や、他人の手垢がついていない曲を見つけるのは、いつだって楽しいんだよ。私はせっせとリストを作るタイプで、数年前にマイケル・マクドナルドとドナルド・フェイゲンと一緒にプロジェクトをやったときも(編注:デュークス・オブ・セプテンバーのこと)、リストの交換を行いながら選曲作業を進めた。たくさんの楽曲を3人の間で何度も交換したけど、熱狂的なファン同士の意見交換はとてつもなく楽しいものだよ。

私はニューオリンズの音楽を見つけ出すのが大好きでね。ニューオリンズの音楽から出てきたミュージシャンやアーティストで、特に古いR&Bの人たちが本当に好きなんだ。50年代〜60年代から生まれ出て、都会的なR&B、モータウン、フィラデルフィア・インターナショナル(・レコード)へと進化した。そういった楽曲をすべて発見するのが楽しいし、自分が発見したものを他の人たちと共有するのも楽しい。それに、今でも何百、何千、何万という楽曲が埋もれたままなんだよ。

Translated by Miki Nakayama

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