ボズ・スキャッグスが語るAOR黄金期、ブルースの再発見「ヨットロックは大嫌いだ」

―1988年に『アザー・ロード』でカムバックしたとき、コロンビアは最初、拒否しましたよね。

ああ、状況が変わっていたんだ。少なくとも、私が活動していた70年代とは違うレベルになっていて、レコード会社はどこも型にはまっていた。『アザー・ロード』を完成してレコード会社に渡したら、当時の社長はヒット曲がないからもっと録音しろと言ってきてショックだったよ。ほら、私たちはヒット曲を出すために音楽をやっているわけじゃないから。でも、社長の言葉に従って新たに曲を録音したよ。そして、それがあの会社でリリースした最後のレコードとなった。

―当時はMTVの全盛期でしたからね。

怖い時代だったよ、本当に。シンセサイザーも登場した時期だ。シンセサイザーに異論はないけど、あちこちで間違った使い方をされていた時代だった。

―活動休止期間中に、サンフランシスコのスリムズというナイトクラブの共同オーナーになりましたよね。このクラブも今年で30年です。出演したアーティストで記憶に残る人はいますか?

(90年代に)スリムズで初めてパティ・スミスを見たんだ。バーに立って、彼女がクラブの天井を吹き飛ばすくらいの演奏を見るまで、彼女の作品の凄さを知らなかった。そういう体験をすると、自分がそれまで何を見ていたのか不思議になってしまう。あとは、カーティス・メイフィールドが演奏したときのことも覚えているね。それに自分のヒーローにもたくさん会うことができた。ハンク・バラード&ザ・ミッドナイターズ、ジョニー・テイラー、ボビー・ブランドなどね。

―グリーン・デイとレディオヘッドも早い時期にあのクラブに出演しましたよね。彼らのライブは見たのですか?

いいや。でもレディオヘッドは後からコンサートを見たよ。1万4000〜6000人の会場だったが、彼らの音楽と演奏に圧倒されたし、畏敬と称賛を伝えようと思った。そしたら、一緒に行った人が「彼らはここまで人気が出る前に君のクラブに8回出演したよ!」と教えてくれた。そんなことばかりなんだよ。いつでも好きなときに入れたのに、見逃したものが本当にたくさんある。

―コロンビアは今、火事に炎に囲まれていて、あなた自身も1年ほど前にカリフォルニア北部の山火事で自宅が焼失しましたよね。
(訳註:この記事は2018年11月28日掲載)

本当に打ちのめされた。妻と私は25年間かけてあの家を作り上げたんだよ。焼けたあとには、道も、水も、電気もなかった。そして私たちは自宅が燃え落ちるのを最後まで見ていて……この火事の最悪の結末はまだ見ていないと思う。世間的に見れば私たちはまだラッキーな方だが、衝撃の度合いはかなりのものだよ。もう一度、家を建て直すつもりだけど、これにはしばらく時間がかかりそうだ。

―失ったもの中で最も価値のあるものは何ですか?

歌詞を失った。アイデアも、スケッチも、デモも、何もかも失った。みんな、なくして悲しいものばかりだよ。もちろん、そういうものは他の方法で再現しようと思えばできるけど、何が悲しいかって、何年もベッド脇に置いていたノートを失ったことだ。たくさんの楽曲のメモをとったノートだったし、これまで自分が作った曲のメモが全部書いてあった。それが何箱も燃えてしまったんだよ。

火災がおきたとき、私はツアー中だった。おかげで、ギターやアンプの大半を自宅に置いていなかったのがラッキーだったよ。置いていたら全部焼けていたはずだからね。それ以外のものはすべて焼失してしまったし、新しいもので代替できないわけじゃない。ただ、こういう衝撃のあとは、自分の人生に戻るために牽引力となる何かを探す時期というのが一定期間あって、もう失ってしまったものを来る日も来る日も、何ヶ月間も求め続けるものなんだ。まるで、まだそこにあるような気分でね。ある種、見えないものを見ている感じだよ。

―あなたが最初に成功したのはスティーヴ・ミラー・バンドの最初の2枚のアルバムでした。彼らとは今でも交流がありますか?

ないよ。ほら、人生とは、誰かと知り合って、一緒に何かをして、それぞれの道を歩くから。

―スティーヴ・ミラーと再び一緒にやってみたいと思うことはありますか?

それは考えないね、うん。それに、一緒にやったとしても「今更どうして?」と思う人がけっこういると思うな。

―これまで受けた最高のアドバイスは何ですか?

20代初めの頃、私はインドに滞在していて、何かを探し求めていた。その年の頃というのは誰もがそうだろう? インドでスピリチュアルなリーダーと出会った。その人の存在感は並外れていた。私はその人と座って話す機会を得たんだよ。彼と自分の間に強力なつながりを感じたね。すると、その人は「目の前の決まった道を進むべきじゃない」と言い、私には「決まった道はない」と言ったんだ。つまり、彼は自分の心に従う勇気を持てと言っていて、自分の本能と好奇心に従うことを勧めた。それがどんな未来に導くとしてもね。

―あなたのキャリアはそのアドバイスを証明しているように思えます。

今でもあのときの彼の言葉に安堵するよ。あの頃自分が探していた答えを未だに見つけてはいないけど、きっと彼の言葉の中にヒントがあるんだろうね。



BOZ SCAGGS 
out of the blues tour

【仙台】5月5日(日) 仙台サンプラザホール       
【東京】5月7日(火)〜9日(木) Bunkamuraオーチャードホール
【大阪】5月11日(土) オリックス劇場
【広島】5月13日(月) 広島JMSアステールプラザ 大ホール
【名古屋】5月14日(火) 名古屋市公会堂
       
チケット
S:¥13,000  A:¥12,000(税込)

来日予定メンバー:
テディ・キャンベル(Dr,Vo)
ウィリー・ウィークス(Ba)
マイケル・ローガン(Key.Voc)
エリック・クリスタル(Sax,Key)
マイク・ミラー(Gt)
グレッグ・ウィエクゾレック(Percussion,Vo)

公演詳細:
https://udo.jp/concert/BozScaggs


『グレイテスト・ヒッツ -ジャパニーズ・シングル・コレクション-』

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■歌詞・対訳・解説付
詳細:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/BozScaggs/discography/SICP-31262


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詳細:https://www.universal-music.co.jp/boz-scaggs/products/ucco-8020/

Translated by Miki Nakayama

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