「グランジ」史上最高のアルバム50選

12位 スマッシング・パンプキンズ 『サイアミーズ・ドリーム』(1993年)


レコーディング自体はほんの4カ月しかかかっていないが、『サイアミーズ・ドリーム』はビリー・コーガンとバンドメンバーが5年の歳月をかけて生み出した総決算だ。デビュー作『ギッシュ』(32位)で批評家たちから絶賛を受け、熱狂的ファンを獲得し、メジャー・レーベルと契約して、次にコーガンが目指したのは一般大衆へのウケだった。例えば『ギッシュ』ではメンバーに不満を抱かせながら、コーガンがすべての曲を作りギターとベースのパートを演奏するなど、制作の主導権を完全に握っていた。この緊張感に薬物中毒、悪化した恋愛関係、ノイローゼが合わさって、パンプキンズはこのアルバムをリリースする前にすでに崩壊寸前であった。幸いにも彼らの苦悩は報われ、『ネヴァーマインド』のプロデューサー、ブッチ・ヴィグの助けを受け、「天使のロック」や「武装解除」、胸をえぐられる「マヨネーズ」のような、ファジーでシューゲイズ的でフックが散りばめられた曲の力によって舞い上がったグランジの傑作アルバムを実現することができた。

ハイライトはもちろん、自信を喪失した空想的かつ楽観的なバラードである衝撃的なほどに皮肉な「トゥデイ」だ。「それを捨てて実現できない理想を追い求めるのか、それとも、シカゴ出身のダサい少年である自分を受け入れるのか? この曲は真実の場所から響いているんだ」とコーガンは1995年、「トゥデイ」についてローリングストーン誌にこう語っている。

※関連記事:1994年のビリー・コーガン「疎外感はない。みんなが何百万枚もレコードを売る時代だから」





11位 ストーン・テンプル・パイロッツ『コア』 (1992)


「これパール・ジャムの曲?」ストーン・テンプル・パイロッツ(以下STP)の「プラシ」がテレビで流れた時、ビーバスはそうつぶやいた。それに対し、「エディ・ヴェダーは髪を赤く染めたんだ」とバットヘッドは答えている(訳注:TVアニメ『ビーバス・アンド・バットヘッド』での一幕)。

大半の人は1992年にSTPが出現したときそんな愚かな反応をしなかったが、サンディエゴのバンドがグランジ・シーンに便乗したことを避難する向きが多かったのも事実である。そういう批判をしていた人々は、70年代のグラム・サウンドをモダン・オルタナティブ・ロック・シーンに融合させたデビュー・アルバム『コア』で、STPが何曲ものキラーチューンを生んでいたことに気づいてなかった。「プラシ」が実際、パール・ジャム『Ten』から取り出したような曲に聞こえたとしても、「クリープ」「ウイックド・ガーデン」「セックス・タイプ・シング」のような曲では完全に彼ら自身のスタイルを聞くことができる。

「俺たちのバンドに類似点があるとは全く思っていない。俺はパール・ジャムのことを、現代版のバッファロー・スプリングフィールドのようなクラシック・ロック・バンドだと思っている。見下して言っているつもりはない。ただ、俺たちは全然違う道を進んでいるんだ」と、1994年にスコット・ウェイランドはローリングストーン誌に語っている。





10位 パール・ジャム 『Vs.』(1993年)


パール・ジャムは元々、このセカンド・アルバムを『Five Against One(5対1)』というタイトルにしようとしていた。それは新曲の「アニマル」にある一節であることに加え、フロントマンのエディ・ヴェダーが他の4人のメンバーやマネージャーのケリー・カーティスと対立していたところから来ていた。簡潔に言うと、ヴェダーは露出を減らし元のDIYスタイルに戻るためにバンドの目標を思い切ってスケールダウンしたいが、他のメンバーはMVを作りラジオで曲をヒットさせ続けたいということだった。「1枚目のアルバムの時、俺たちは地下室に住んでいた。2枚目であの地下室から遠くに来すぎてしまったと感じた。そこは当時の俺にとって、アルバムを作るには難しい場所だったんだ」とエディ・ヴェダーは語っている。

どうにかして彼らは意見の相違を解決し、お互い協力する道を選び、「ゴー」「ドーター」「ディシデント」「エルダリー・ウーマン・ビハインド・ザ・カウンター・イン・ア・スモール・タウン」のような名曲を次々と生み出した。そのおかげで、このアルバムは1本のビデオも作らず、インタビューもほぼ受けていなかったにも関わらず、初週で100万枚近く売り上げた。ヴェダーが望んでいたことが何であれ、パール・ジャムは単純に大きく、才能がありすぎたため失敗することなどありえなかったのだ。

※関連記事:パール・ジャム『Vs.』 あなたが知らない10の事実




Translated by Takayuki Matsumoto

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