シネマティック・オーケストラが語る復活劇の裏側「音楽における政治的主張を取り戻したい」

─TCOはいつも、念入りなポスト・プロダクションによって楽曲を練り上げていくスタイルを取っていますよね?

ポスト・プロダクションは、演奏の中の「曖昧さ」を取り除いていく作業とも言える。そのためにはものすごい集中力が必要だ。音色のトーン、テクスチャー、そういったものをどう仕上げていくか……もちろん、楽曲そのものにもこだわっているけど、サウンド・プロダクションにもこだわっているぶん時間もかかる。今回はその作業を、トムと一緒にできたことを誇りに思っている。彼は「もう1人のメンバー」といっても過言ではないかもね。

─しかも今回は、ライブで披露しオーディエンスの反応を見て手直しを加えることもあったとか。

イエス。2016年の数ヶ月間をヨーロッパツアーに費やし、そこで5、6曲ほど新曲を試した。そのうちの何曲かは、次のアルバムに入る予定だ。

ライブのステージほど、音楽をより発展させる場所はないと思っているよ。ある意味では「リアルタイムのリハーサル」といえるかもしれない。オーディエンスのリアクションが曲の持つ方向性を決めたり、新しい発想を探し出したりするモチベーションにもなるからね。その発想を持ってスタジオへ入れるんだ。


Photo by Kazumichi Kokei

─そうした念入りなエディットやポストプロダクションは、テオ・マセロからの影響なのかなと個人的には思っていたのですが。

その通りだよ。間違いなく彼の影響はでかい。あとはルディ・ヴァン・ゲルダーやクインシー・ジョーンズ、新しいところだとデヴィッド・レンやディプロもいいね。やっぱりプロダクションはアメリカに軍配があがるな(笑)。

─アメリカといえば、今作のストリングス・アレンジを手がけたミゲル・アトウッド・ファーガソンをはじめ、客演ではドリアン・コンセプトや、デニス・ハムらブレインフィーダー周辺の人たちが多数参加しています。

主にドムの人脈だね。彼はロサンジェルスに移り住んでもう10年以上経つのかな。ロンドンからニューヨーク、そしてLAという具合に、最先端のクリエーターを求めて彼がどんどん西へ移住して行き、そのたびに付き合うコミュニティもどんどん変わってきたからこその出会いだよね。サンダーキャットや、彼の兄であるロナルド・ブルーナー・Jr、数年前に亡くなってしまったオースティン・ペラルタとの交流も、そのおかげだ。

─オースティンはTCOにもピアノで参加していましたよね。

僕もニューヨークを経てロサンジェルスへ行き、そこでオースティンと出会って仲良くなった。とにかくLAには強い親近感を覚えたな。音楽をとても大切にしていたり、共有し合う精神を大切にしていたり、お金よりクリエイティブに重きをおく姿勢にもとても共感を覚えた。

ただ、最近はロサンジェルスのバブルも弾け始めている。ベルリンへ移る人もいるし、またニューヨークに注目が集まり始めているよ。ブルックリンのコミュニティはまだ生きているし。そうやって巡り巡っていくんだろうね。

─彼らやフライング・ロータスらのやっている、ジャズの新たな解釈やアップデートについてはどんな見解を持っていますか?

彼らの音楽的なアプローチはとても新鮮だよ。きっと僕と同じように、ジャズだけじゃなくいろんなものを聴いている人たちだからこそというか。そもそも「ジャズ」というのは、「クリエイティブな表現における自由」というか。音楽的なカテゴリーとしてジャズが何を意味するのかは、僕には正直よく分からない。何か新しいものを構築して、それを一旦壊し、さらにまた新しいものを作り出していくという「進化」のあり方そのものが「ジャズ」なんじゃないかな。

─音楽スタイルというよりは、アティチュードに近い?

そう思う。例えば楽器の編成や音作りについて、「これはジャズじゃない」「あれはジャズだ」ということを、僕自身考えたことがないんだよね。クリエイティブなマインドセットこそが「ジャズ」だし、その部分でフライング・ロータスからサンダーキャット、そしてジェイミー・XXという系譜でも捉えられるんじゃないかな。ポリリズムのようなアフリカン・ミュージックを、クラブシーンに持ち込むやり方とかね。そういう意味ではジャズもヒップホップと同様ストリートミュージックだと思う。

あと、アメリカにおけるジャズって「ソーシャルカルチャー」の要素も内包している。アメリカの文化圏でのみ通じる何かが絶対にあるよね。他の国のジャズとは歴史的な成り立ちからして違うから。そこには政治的な背景もあるだろうし、語り口(narrative)の部分もある。つまりアメリカにずっと住んでいた人たちだからこそ共感しうる、実感しうることが歌われているのだろうなと。例えば文化的、社会的な葛藤が、アメリカのジャズの本質に流れていると思うし、それは時を超えてもなお有効であり、今後も残っていくものだと思う。

Translated by Kazumi Someya

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