テイラー・スウィフト新曲から考察する「先行シングル」の出し方

彼女が「先行シングルの出し方のお手本」としているのがアルバム『スリラー』なのは明らかだろう。1982年にマイケル・ジャクソンがアルバム『スリラー』のリリース準備をしていたとき、彼が先行リリースしたのが「ガール・イズ・マイン」だった。これを聴いて、『スリラー』にはありきたりなバラッド曲が収録されていると世間は思った。事実、この曲をデュエットしたポール・マッカートニーですら困惑して、「この曲は底が浅い」と言ったと認めた(そんなマッカートニーも1972年にソロとしてシングル「メアリーの子羊/Mary Had a Little Lamb」をリリースしている)。

このような下地があったせいで「ビリー・ジーン」がリリースされたときに世界中が度肝を抜かれた。マイケル・ジャクソンが張った「ガール・イズ・マイン」という煙幕の後ろに「ビリー・ジーン」が隠れているなど、誰ひとり思いもよらなかったのである。そして、これこそがジャクソンが意図したことだった。スウィフトもこれと同じ効果を狙っているはずだ。

スウィフトの先行シングルには必ず「しゃべり言葉」が登場する。今回の新曲に出てくる「Spelling is fun」は「I mean, this is ex-HAUS-ting(ねえ、これってめちゃ疲れるんだけどの意)」、「the old Taylor can’t come to the phone right now(現在、昔のテイラーは電話にでることができませんの意)」、「the fella over there with hella cool hair(あっちにいるかなりクールなヘアの男の意)」などのテイラー的しゃべり言葉の流れを汲んでいる。「ME!」はスウィフトお気に入りの比喩表現がふんだんに使われており、ロードの「グリーン・ライト」と「スーパーカット」の共同ソングライターであるジョエル・リトルもいい仕事をしている。

スウィフトの新曲が公開された翌朝はいつも大騒ぎになる。これまでの彼女の「先行シングル」同様、「ME!」も示唆がてんこ盛りだ。スウィフトだからこそ、念入りに計画された戦略に基づいてリリースされるアルバムを人々は楽しめる。そういう戦略までも自身のアート面の進化に組み込んだポップスターは未だかつていない。

Translated by Miki Nakayama

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