石川さゆりが語る、若者や世界に伝えたい日本の音楽「民謡はロックと対峙しても揺るがない」

日本古来から歌い継がれてきた民謡を収録したアルバム『民~Tami~』をリリースした石川さゆり


―矢野さんのピアノパートは楽譜にしたものを弾いてるのですか?

一応楽譜を書いてはいらしてました。でも、それを弾いているっていうんじゃないですね。だって、せーので3人がスタジオに入り、演奏を始めたので。どういう風に津軽三味線が出てくるのか、矢野さんもわからない。最初にポンって矢野さんのピアノの音が出て、またそれに津軽三味線が反応するわけなので。で、それに私がどっか入って行く。決まりがないんですよ。「どこから入ってもいいですよ」って言われて「出よう」と思ったところで私は出るし(笑)。

―同じテイクは二度と録れないですね。

はい。二度と録れないですね。

―そういうレコーディング方法は今までにもやってきたのですか?

実は私は結構同録をやるタイプの歌い手なのです。アルバム『民~Tami~』の中で言えば『島原の子守唄』なんて、かなりストリングスが入っているのに、指揮者もなしです。アレンジャーの菅野よう子さんがピアノを弾いてるんですけど、私のヴォーカルブースの隣に菅野さんのブースがあり、その奥にストリングスのブースがあり、ガラス張りのブースなので、私も演奏するみんなを見ながら歌ったんです。指揮者はない、ドンカマでもない。これも一発録りですね。このアルバムにはそういうのが随所にある。演奏者の息使いに反応して歌ってる部分が多いから、カラオケで歌ってくれって言われても絶対に私歌えない(笑)。ヴォーカルだけを抜いて、そのオケで歌ってくださいって言われても、ちょっと無理かな。

―かなりリスキーなレコーディングをしたんですね。

そうですね。でも聴いてくださってそれを感じていただけたのであればすごく嬉しいです。

―『津軽じょんがら節』の力強い静寂は、ジャンルや国境を超えて伝わる何かを確実に持っていると思います。

音楽としての純度がすごく立ってますよね。そこにどう向かっていこうかっていうのが非常に楽しかったですね。
―高い純度の歌・演奏のおかけで、このアルバムを通して古の人たちと交信ができた感じがします。この『民~Tami~』におけるさゆりさんは、ヴォーカリストというより、古の人々を媒介してくれるシャーマン的な存在だと感じました。歌を通じて、昔の人たちが考えていたことや、歌に織り込まれた無名な人たちの気持ちや、仕事をしてる時の様がわかった気がしました。

それは嬉しい感想だなぁ。本当にそういう民謡のアルバムを作りたかったんです。のど自慢じゃない「いつもよりこぶしが回っております!息が伸びております!」みたいなのじゃない(笑)。民謡ってともするとのど自慢な感じがあるけど、そうじゃない、もっと日本人の生きた証と暮らしなので。

―でも、どうしたらそういうことを歌で表現出来るんですか?言葉で表現するのも難しいのに。

なんでしょうね。絶対言えるのはテクニックじゃないです。と、言ってもみなさんにお求めいただくわけですから必要なことだと思いますけども。でも、テクニックだけじゃなく、ちゃんと血圧が上がったり下がったりする(笑)、そういうものを作りたかったんですね。

―血圧が上がったり下がったりというのは、具体的にいうと?

歌っていて自分でもわからないんだけど、音楽聴いてたり、うれしいこと、せつないことあった時にキューンってなることってないですか?なんかそういう歌を作りたかった。それが本当の歌なんじゃないのっていう気がするんですよね。

―さゆりさんはいつから本当の歌を歌えるようになれたと思いますか?

今も完全に本当の歌を歌えているか、自信はないです。でもそんな思いで歌っています。

―少なくとも『民~Tami~』には本当の歌が詰まっている、そう感じました。

嬉しい。歌の持っている力、それに純粋に向かい合ってくださった大勢のみなさん、音楽を真剣に愛する人たちが集まって、そこに歌というものを同居させていただいた。だから生意気な言い方をすると、へぼい音楽には歌をのせられないんですよ。だいぶ、言葉が悪いですけど(笑)。聴こえてくるものにしか反応はできない。っていうのが正直なところですね。だから、いい歌が歌えたんだとしたら、それを出してもらえるいい音があったってことかな。

―『民~Tami~』に収録されている全17曲の民謡を通し、古の人たちと音楽を通して交信し、さゆりさんの中に残ったものは何でしょうか?

わりきれない日本人。深いな(笑)。それと、どうしても、譜面に書ききれないんですよ。なので、「いっせーのーせっ!で私が出たら出てください」とか「この音が聴こえてきたら私出ますね」とか「聴いて反応して、止めたり出したりしてくれますか?」そういう約束事しか作れないんです。「何拍のばしてください」とかそんな指示が出来ないから譜面に書けない。だから間合いとか空気を読むしかない、これは日本人特有なんだろうなって思いましたね。そういえば「空気読めや!」って日本人の言葉ですよね(笑)。それを音楽で感じましたね。

―それが静かな曲で顕著に出ている気がしました。日本的な情緒みたいなものが。

やはり“間”の文化ですからね、日本は。

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