独立系DIYアーティスト市場が1000億円規模へ、大手レーベルも参入

新たに加わった市場の成功例として、Vérité、Rex Orange County、Lauvをはじめとする数多くの人気インディーアーティストを抱えるAWALを見てみよう。なかでも、Lauvはここ最近で20億回というストリーミング回数を達成した。イギリスの政府機関であるCompanies Houseに最新の公会計を提出したKobaltによると、同社のレコーディング部門であるAWALは2018年6月末までに1年で5990万ドル(およそ66億円)の収益を上げた。

とはいっても、現時点ではDIYアーティストに限定して話を進めよう。DIYアーティストとは、自らのキャリアをコントロールし、アグリゲーターと手を組みながらオンラインで自作の音楽作品のディストリビューションを行なうアーティストのことだ。こうしたセクターの市場における成長の成功例として最適なのがTuneCoreだ。セルフリリース アーティストのディストリビューションにおける市場のリーダー的存在と呼ぶにふさわしいTuneCoreは、2019年3月末までの18カ月間で独立系アーティストによって5億ドル(およそ550億円)もの収入を得たことを5月初頭に発表した。この金額には音楽出版収入やYouTubeのユーザー参加型コンテンツ(UGC)の収益は含まれていない。さらに驚きなのは、TuneCoreのDIYアーティストの収益が2019年の最初の3カ月で8600万ドル(およそ95億円)に達したことだ。これは1日100万ドル近い金額を伸ばしているのに等しい、凄まじい数値だ。

忘れてはいけないのが2019年3月に2億ドル(およそ220億円)という一連の買収によってDIY音楽出版のスペシャリストSongtrustの親会社Downtownが手に入れたCD Babyの存在だ。Spotifyもセルフリリース アーティストに大金を注ぎ込んでいる。250億ドル(およそ2兆7000億円)の価値があるとささやかれているストリーミングサービス大手のSpotifyは、2018年10月にDistrokidの株式の一部を取得したものの、金額は公開されていない。さらには、DIYアーティストからデジタル・フィジカルフォーマットの音楽をファンに発信させるスペシャリストであるBandcampは、いまや毎月800万ドル(およそ8億8000万円)もの収益を上げている。

フレッド・デイヴィス氏は、目まぐるしく成長するインディーアーティストのディストリビューションおよびサービスのスタートアップ企業Amuseのみならず、世界でもっとも人気の音声ストリーミングサービスを運営しているSoundCloudの主な投資家でもある世界的投資銀行のレイン グループのビジネス・パートナーを務めている人物だ。「音楽業界におけるストリーミング革命が生んだもっとも早いスピードで成長しているエキサイティングなセクターこそが自費音楽出版アーティストです」とデイヴィス氏は見解を述べた。「これまでは、無契約アーティストが才能を貨幣化できる唯一の方法がライヴパフォーマンスでした。でも、いまではこうした自費音楽出版アーティストの技能をサポートするための新しいセクターが成長しています。ストリーミング革命が世界規模で起きているいま、これはアーティストにとってとても嬉しい展開です」。

急増するドルの数値だけがこのセクターのすべてではない。セルフリリース アーティストはいまでは真の一大ビジネスに成長しようとしている。TuneCore、CD Baby、Distrokidだけを見ても合計110万人以上ものアーティストを抱えているのだ。4月にSpotifyの創業者ダニエル・エク氏が同プラットフォームに毎日4万近い楽曲がアップロードされている、と発表したように、こうしたアーティストたちはオンラインという戦場でストリーミングのバトルを繰り広げているのだ。なんせ、2秒ごとに1曲アップロードされているのだから。

ひいては、巨額の資金を飲み込みながら成長するDIYアーティスト市場こそ、世界的に急速に巨大化しているビジネスである。ユニバーサル ミュージック グループ、ソニー・ミュージックエンタテイメント、ワーナー・ミュージック・グループをはじめとする大手レーベルが参加を目論みはじめることに意外性などない。

数年前、ユニバーサルはTuneCoreのライバルとしてセルフリリース アーティストのためにSpinnupを立ち上げた。しかし、業界的に見ても、Spinnupをめぐる同社の取り組みはそれ以来鳴りを潜めているようだ。それでも、ユニバーサルはCarolineと買収したばかりのInGroovesという2ブランドを抱えている。どちらもEMPIREやAWALと似た方法で独立系アーティストを専門に扱い、大手レーベルならではのマーケティングによってセルフリリースしたばかりの新作を市場に売り込むサポートを行なっている。

その一方、ソニーはOrchardというインディー ディストリビューション&サービスネットワークを自社で抱えており、DIYアーティストではなく、BTS(防弾少年団)やジョルジャ・スミスなどのトップクラスの独立系アーティストと手を組んでいる。昨年、Orchardは一流独立系アーティストのための初グローバル部門を立ち上げ、責任者に高評価のオーストラリア出身の幹部、ティム・ピットハウス氏を任命した。

ワーナーは、現在DIYアーティストというセクターにおいてもっとも意欲的かつ実験的な試みに取り組んでいる大手レーベルだ。昨年、同社はTuneCore、CD Baby、Distrokidなどの直接的なライバルではないものの、無料でDIYアーティストの楽曲を配布するLevel Musicを立ち上げた(Level Music以外のサービスを利用するには前金、あるいはアーティストのロイヤルティの割合に応じた少額のコミッションを支払わなければならない)。

かつてはベッドルームで活動する少人数バンドだけのものだと思われていたセルフリリース アーティストの世界は、いまでは毎年10億ドル以上もの収入を生み出すまでになった。ベッドルームから、大金が飛び交うボードルームこと役員室への進出が実現した証拠だ。

Translated by Shoko Natori

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