ビリー・ジョエルが語る、70歳を迎える心境と最近のあれこれ

5月9日に70歳の誕生日を迎える、ビリー・ジョエル(Jesse Dittmar)


―下のお子さん二人は3歳と1歳の女の子ですが、現在の子育ては昔とは違うと思いますか?

一番の違いは、一緒にいると子どもの祖父だと思われることだね。娘を学校に送っていくと、他の児童の親が「まあ、お孫さん、とても可愛いわ」ということがある。そういうとき「そうだね、ありがとう」と応えるよ。大したことじゃないからね。今でも父親業がとても気に入ってる。この歳で父親になれるなんて想像すらしていなかったから。でも父親になれて嬉しい。子どもたちのおかげで若さを維持できているよ。

―娘さんが3人いるおかげで女性についてたくさん学べたと思いますか?

ああ。子どもの頃からずっと女性の中で生きてきたから。私は女性たちに育てられた。幼い頃から父親はいなかった。あと、何度も結婚したし、娘も3人いる。子どもの頃から常にエストロゲンふんだんな人生だよ。

―女性の中で生きてきたことの影響はどんなものですか?

自分が育った環境はとても恵まれていたと思う。母はミュージシャンになることを支援してくれた。父親から脅されてミュージシャンになる夢を諦めた同年代の男たちをたくさん知っているよ。それに比べたら、とても穏やかな環境で育ったといえる。愛情にあふれていて、とても温かい環境だった。女性特有のそういう気質が心地よいし、尊敬もしている。これは娘たちも持っている気質だ。今、育てている娘たちは将来母親になるだろうし、彼女たちには私の母のような母親になってほしいと思っているよ。

―毎月行うマディソン・スクエア・ガーデン公演のセットリストはどのように決めているのですか? 決まった選曲方法はあるのですか?

ガーデンでの前回のコンサート以前は、ヒット曲とアルバム収録曲のバランスをいい具合に取るように意識しながら選曲していた。でも前回、「なあ、みんな、俺たち、ヒット曲だけのコンサートは一度もやったことがないよな?」と、みんなに言ってみた。実はニューヨーカー誌に掲載された記事で、私が「33発屋」として取り上げられていてね。数えたことがなかったから、そんなにヒット曲があるなんて知らなかったんだ。そこで「ちょっと待て、ヒット曲が33曲だって? 一回の公演で演奏する曲の総数より多いじゃないか。これなら、アルバム曲はなしで、ヒット曲だけのコンサートができるんじゃないか?」と思ったわけだ。それが前回のコンサートで、ヒット曲だけというのは初めての試みだった。演奏者にとってこれまで違う雰囲気で、ヒット曲をバンバンバンと連発する感覚がけっこう楽しくてね。コンサートが終わる頃には「これは案外いいセットリストだな」と思うようになっていたよ。

―ここ5年間で数多くのコンサートを行ってきましたが、「キャプテン・ジャック」だけはほとんど演奏していませんよね。それはなぜ?

彼はいい年のとり方をしていなかったせいで、ジャック大佐はジャック一等兵に降格になった。この曲のヴァース部分にはコードが2つしかなくて、それが延々と続く上に、歌詞を読むと侘しい感じしかしない。そんなこんなで、自宅待機中のジャックはせっせとオナニーに興じているらしい。ヤツの親父はプールで溺死したし、郊外でのつまらない生活の慰めはハイになることだけ。最後のこの曲を歌ったとき、「これは歌っていて本当に気が滅入る」と言った記憶がある。この曲で唯一ホッとできるのが、コーラスが入ってきたときだ。つまり、この曲を歌うとどうしても侘しい感覚を覚えるから、もう歌いたくないっていうのが本音だよ。とはいえ、今後どこかで歌う可能性はゼロじゃない。



―何年もコンサートで必ず歌ってきた「怒れる若者」も外しましたよね。

この曲はオープニング曲として何年も演奏した。これを続けるためには、続けたいという強い思いと情熱を維持しないといけないのだが、同じことの繰り返しで情熱が燃え尽きてしまうことがある。そして、もうやりたくないと思ってしまうんだよ。

―同世代のアーティストは1枚のアルバムを最初から最後まで順番に演奏するコンサートを近年よく行っていますが、あなたは一度もやっていませんよね。「ストレンジャーの夕べ」とか「ナイロン・カーテンの夜」とか、やらない理由は何ですか?

そういう提案はあった。その返事として「いいよ。でもさ、アルバムの数が12枚くらいあるから、1枚だけフィーチャーするとなると、かなりの数の公演をそれに充てないといけない。そうなると、他のアルバムに収録されている楽曲を披露する時間もなくなるし、セットリストのバランスを取ることも難しくなる」と答えた。だからアルバム1枚をフィーチャーするコンサートは一度も行っていないわけだ。最近は他のアルバムと比べて『ストレンジャー』収録曲の割合が高いけど、演奏したい曲が非常に多いから、アルバム1枚に限定したくないね。

―引退ツアーをする自分を想像できますか?

できない。引退コンサートやツアーが現実のものになるとすれば、もう上手くプレイできないと実感したときだろうね。つまり、ピアノを上手に弾けない、体力がもたない、パフォーマンスに集中できないと実感したとき、もう潮時だと気づくと思う。もしかしたそう感じた日のコンサートの最中に決断して、そのライブを最後に引退するかもしれない。でも、間違いなく事務所が「それはダメだよ。今、引退公演をやれば大金を稼げるんだから」と言ってくるだろうね。

―最近はロックスターの自伝映画がヒットしていますが、ビリー・ジョエルの自伝映画は想像できますか?

自分は自伝作品を作れるほどの客観性に恵まれていないから。一時期、自叙伝を書こうと思ったことがあって、実際に書いてみた。でも、私の人生には出版社が求めるだけのセックス、ドラッグ、ロックンロールがなかったんだよ。だから、出版社に出版契約の前金を返還した。「もう、使えねぇな、自分」と思ったね。そんな人生だから、映画化に興味を持つかは自分でもわからない。自分の人生を生きてきたし、自叙伝と同じことは繰り返したくないね。

Translated by Miki Nakayama

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