アジカン後藤正文と妹沢奈美が語る、ヴァンパイア・ウィークエンド最新作の全容

左から妹沢奈美、後藤正文(Photo by Kayoko Yamamoto)



妹沢:今作で大きく変わった点として、ロスタム・バトマングリという、ソングライティングやサウンドの重要な存在が脱退したんですよね。実は私、それがちょっと心配だったんですよ。特に前作は、エズラが歌詞を書き、ロスタムが曲を書くという分業にしていた。そのロスタムがいなくなることで、エズラを中心にしたヴァンパイアの曲というのが、ちょっと想像がつかなかったんですよね。

後藤:うんうん。

妹沢:そしたら、新作を聴いて「あ、自分らしい音をきちんと見つけてきたな」と思いました。エズラに取材をしたんですが、まず2014年に前作のツアーなどが終わった後、2年間何もしないでちょっと音楽から離れようと思った時期があったと。その時期を経たことで、次の年に、どんどん曲が生まれたそうです。ただ、プロデューサーのアリエル・レヒトシャイドが、ちょうどハイムの制作をしていて、なかなか一緒に作れなかった。それが終わってようやくヴァンパイアの録音が始まったこともあり、本人は前作からの6年を長かったと思っていないし、音楽をまた好きになったからこそ、この作品ができたという話をしていました。

後藤:6年間びっちり休める経済力がうらやましい(笑)。でもほんと、すごい良くまとまっているというか、色んなトレンドが影響与えていると思いました。ギターとかも、歌ってるときに休んでたり。

妹沢:歌ってるとき休む、とは?

後藤:や、ガシガシ弾くと埋まっちゃうんですよ。要は、音って周波数5khzから40khzまでの間にしか音は置けないんです。5khzとか聴こえないから、30Hzから20kHzとか、ここからここまで、って決まっていて、その中で色んな楽器が空間を奪い合ってるだけなんです。

妹沢:へぇー!

後藤:だから、余計な音がない状態、音数が少ない方が、それぞれの音を聴かせやすいんです。いっぱい重ねたらミルフィーユみたいになっちゃって、膜で隠れて、上に出てきたものだけ良く聞こえる、みたいになる。



妹沢:後藤さんよく、音を語るときに「ローが響いているかどうか」を大切にされてるじゃないですか。

後藤:はいはい。

妹沢:今のお話で腑に落ちたんですが、今回のヴァンパイアは、ローがある音だなと私は感じたんですよね。

後藤:はい、今回はローが出てますね

妹沢:それも、工夫があったからこそ?

後藤:そうですね、ベースが下に動くと、スペースが空くんです。ギターの一番下の低い弦の音だったり、声の一番低いところも、ベースが上まで埋めたら隠れちゃう。で、それを下げることで、ボーカルとかギターの存在感も凄い際立つ。

妹沢:なるほど、面白いですね。

後藤:でもやっぱりヴァンパイア・ウィークエンドなんで、不自然な感じではないところがいいですね。ただ出せば良いってわけじゃなくて、ナチュラルに処理をしたんだろうなって感じがしますけどね、聴いていて。


Photo by Kayoko Yamamoto

妹沢:あえて伺いたいんですが、特に気になった曲や好きだった曲というと?

後藤:えっとね、「ディス・ライフ」が好きでしたね。サウンドがいいな、面白いなと。



後藤:でも全体的にどの曲も良くて、ボーカルにかかってるエフェクトとかも、奥で揺れながら効いていたり。そういうサウンドデザインが、前作と全く違う。すごく凝った作りになってるな、と思いました。バンド感はさすがにちょっと薄れるけど、サウンドデザインとしてすごくいい。インディー・ロックも含め、ロック・バンドってずっと行き詰まってきたと思うんです。録音をどうしよう問題、みたいな。

妹沢:うんうん。

後藤:で、色んなバンドがそれぞれの解答を出してきている。ダーティー・プロジェクターズのやり方も面白かったし、レッチリですらかなりバキバキに解体してやっていて。『OKコンピューター』でレディオヘッドがやったことを、もうちょっと違う解像度で今の人たちはやらなきゃいけない。っていうのも、低音の構造が変わっちゃったんで。でも、ヴァンパイアはなんか、バンドの骨や身を変えずに成し遂げた感じがあって、凄いなと思いました。

妹沢:過度に力を入れずに、という感じ?

後藤:そうそう。ガラッとサウンドデザインが変わったように聞こえるわけじゃなくて、なめらかに、楽曲の構造とかそんな変わらずあのヴァンパイア・ウィークエンドのまま、ただ単に音がめちゃくちゃ良くなった、みたいな感じで聴けたんです。

妹沢:それはミュージシャンの目から見ると、難しかったりするんですか?ほら、変わると言えども、色んな変わり方があるじゃないですか。

後藤:やっぱりバンドって、結局バンドであろうとしちゃうところがありますよね。例えば、ドラマーは打ち込みにするのが嫌なんですよ、多分ほとんどのバンドがそう。「俺の出番がない」みたいな感じになっちゃうから。そういう頑固さが、変化を阻むことがあったり。

妹沢:なるほど。

後藤:でも、この新作はそういうのを感じないですよね。本当にナチュラル。不思議。メンバーが、疎外されてる印象も全くないし。

妹沢:ないですね。全然ない。

後藤:ないですよね。聴いていると「他のメンバーは大丈夫か?」みたいな作品もあるじゃないですか。

妹沢:ありますね(笑)。

後藤:ヴァンパイアはそういう心配させないのがいいなと、聴いてて思いました(笑)。ただ、音が良くなった。バンド的なバージョンアップをしないで、ただ単にナチュラルに音が良くなるっていうのは、意外と難しいと思うんですよね。

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