Spotify「偽アーティスト」のストリーミングが横行 プレイリストに潜む各社の策略

「偽アーティスト」10組によって獲得したストリーミング回数がSpotifyにどれだけ有利かというと、出版印税を別にして、Spotifyが音楽録音物の著作権所有者に支払うストリーミング1回の金額は約4セント(4/100ドル)というのが業界の推定標準だ。そして、このレートで12億2000万回の支払額を計算すると、アーティストが実在する場合、Spotifyは本来ならばレコード・レーベルとアーティストに合計約490万ドル(約5億円)を支払うことになる。

Spotifyの「偽アーティスト」の深刻さは、収益金額だけに留まらない。少し前に報告された通り、Spotifyは主要著作権所有企業3社(つまりユニバーサル、ソニー、ワーナー)と2019年中にグローバル契約を再交渉する。Spotifyは自社作成の「ムード」系や「アクティヴィティ」系プレイリストからメジャーレーベル所属アーティストを排除する計画で、彼らよりも安い「偽アーティスト」に切り替えるつもりでいるという情報が流れており、これが交渉段階でメジャー・レーベルに大きな影響を与えることは想像に難くない。

面白いことに、ここ2年間「偽アーティスト」の存在を訴えてきた大手レコード会社各社は、ここにきて「潰せないなら手を結べ」戦略に方針転換する可能性が出てきた。プレイリスト作成のエキスパート、キエロン・ドノヒューが少し前に「ソニー・ミュージックが怪しげな『ムード』系プレイリストをSpotifyとApple Musicでストリーミング開始した」と指摘している。このプレイリストは「スリープ&マインドフルネス・サンダーストーム」で、ソニーのFiltrブランドとして公開された。Spotifyの「スリープ&マインドフルネス・サンダーストーム」プレイリストには990曲以上の楽曲が含まれており、合計18時間以上のオーディオで、1分間隔で切り刻まれた一連の嵐の音をつなげたものがメインコンテンツだ。

このプレイリストのほとんどの楽曲のクレジットに登場するのが「スリーピー・ジョン」で、これはエピデミック・サウンドと同類の制作会社イエロートーンと契約しているコンポーザーのデヴィッド・タラディということが明らかになっている。Spotifyのスリーピー・ジョンのプロフィールを見てみると、再生回数の多いトップ10曲(その実は「曲」ではなくて単なる録音物で、雨音を加工した音だ)は、公開当日に400万回再生されている(これに対してSpotifyも、ソニー・ミュージックも、エピデミック・サウンドもコメントを拒否した)。

デジタル・マーケティング会社モーティヴ・アンノウンの創業者ダレン・ヘミングスは、ソニーの「スリープ&マインドフルネス・サンダーストーム」手法を検証しながら、これでソニーがそこそこの収益を得られるという結論に到達する過程で、オンラインで「スリーピー・ジョン」の本当の姿を見つけた。まず押さえておくべき点は、Spotifyにしろ、Apple Musicにしろ、音楽配信サービス会社は、どの楽曲であれ、その尺(時間的な長さ)にかかわらず、リスナーが30秒以上聞いた楽曲に対して1曲分の使用料を払う。だとすると、嵐の音を1分間隔でぶった切ってそれぞれを1曲とする手法は、金儲けできる最も手軽な手段と言える。加えて、「スリープ&マインドフルネス・サンダーストーム」の楽曲の曲名は、検索エンジン最適化を熟考して決められている。そして、何よりもプレイリスト名自体が長時間の聴取活動を促す仕様になっている(つまり、眠りにつくために聞くということは、リスナーが寝た後もそのままストリーミングされる可能性が高い)。

ヘミングスはソニーのこの戦略に不快感をはっきりと示しつつ、「簡単に説明すると、最大限の収益を得ようと慎重に作られた楽曲が、プレイリスト・ブランドを利用して、あらゆる所でストリーミングされる。それに広告料が加わると、彼らの収益は一気に入れ食い状態になる。みんな、2019年の音楽業界から目を離すんじゃないぞ」と締めている。

Translated by Miki Nakayama

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