カート・コバーンがローリングストーン誌表紙で着用したTシャツのリメイク版が登場

2019年1月17日にフランス、パリで開催されたパリ・メンズ・ファッションウィークにて、「ヴェトモン VETEMENTS」の2019-2020秋冬コレクションをまとったモデルがランウェイに登場(Photo by GettyImages)

1992年に米ローリングストーン誌の表紙を飾ったカート・コバーン。表紙で着用したTシャツにインスパイアされた、法外な値段のデザイナーTシャツが登場した。「商業誌はマジで最悪だ!」という強烈なメッセージが書かれたTシャツの値段はなんと550ドル(およそ6万円)だ。

人気デザイナーのヴァージル・アブローやファッションの過剰性を謳歌するMETガラのようなイベント、さらにはトランプ大統領のメラニア夫人が着たことで物議を醸した「I Don’t Care(興味なし)」ジャケット……。ファッション業界は皮肉であふれかえる時代に突入した。こうした事態にさらに油を注いだのが、1992年に米ローリングストーン誌の表紙を飾った際にカート・コバーンが着ていたTシャツから着想を得た、人気ラグジュアリーブランド、ヴェトモン(VETEMENTS)の新作「オーバーサイズ コットンジャージー プリントTシャツ」だ。

「A LOT」という、いかにもアナーキスト的な言葉を加えることでコバーンが着ていたオリジナル(オリジナルにはこの言葉は一切登場しない)よりもさらに過激なメッセージを掲げたTシャツの値段は、なんと550ドル(およそ6万円)だ。


1992年4月16日発行の米ローリングストーン誌の表紙を飾ったニルヴァーナ(マーク・セリガー撮影)

「1992年当時、カート・コバーンはローリングストーン誌の表紙を通じて、彼なりのやり方で『それでも商業雑誌は最悪だ』と由緒ある雑誌社を茶化した。そして2019年のいま、デザイナーのデムナ・ヴァザリア氏はヴェトモンのランウェイを通じて同じことを行なっている」とファッションエディターはコメントした。「コットンジャージー製のTシャツには、コレクションのテーマのひとつでもある『アンチソーシャル(反社会的)』な側面がさらにアナーキスト的な要素とともに表現されている」。(何のことやら? という読者のために補足しておこう。このTシャツは政府による監視プログラムやダーク・ウェブを「アンチソーシャル」というテーマと結びつけたヴェトモンの2019秋冬コレクションの一部なのだ。とはいっても、モデルは抗議運動のシンボルの“ガイ・フォークス・マスク”なんてつけていない)。

たとえば「We Should All Be Feminists(私たちは皆フェミニストであるべき)」というメッセージを掲げた850ドル(およそ9万4000円)のDiorのTシャツのように、頭が切れるファッションライターの批判をおうむ返しにするわけではないけれど、コバーンの政治的態度を商品化することはマヌケなほどコバーンの意図を理解していないと同時に、最終的には企業利益につながるものだ。有言実行できるかはさておき、企業の目的は変化をもたらすことではなく、儲けることなのだから。こうした企業が本当に問題解決に取り組むのであれば、ファッション業界にはびこっている問題(服飾メーカー従業員への未払いや危険な労働環境など)の解決を掲げるべきなのだ。反逆のシンボルとしてカート・コバーンは便利だ。だからといって、今後「このTシャツは最低賃金以下で働く人々によって作られました」と書かれた商品が店先に並ぶなんて期待してはいけない。

Translated by Shoko Natori

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