ウータン・クランのRZAが語った「過去を振り返ることは、祈りを捧げることよりも大切だ」の真意

Showtimeで放送されたウータン・クランの歴史を包括するドキュメンタリー『Of Mics and Men』(Photo by Al Pereira/Michael Ochs Archives/Getty Images)

先日、Showtimeで放送されたウータン・クランの全4話からなるドキュメンタリー『Of Mics and Men』の最終話。その冒頭付近には、歳を重ねて知恵と落ち着きを身につけたメンバーたちが、大きなテーブルを囲んで食事を楽しむシーンがある。

過去3話では、彼らが地元のタレントショーに出演し、ホワイトラベルのアナログ盤を自主流通させ、音楽業界におけるパイオニアとなり、グローバルなスーパースターの座へと上り詰めた軌跡が描かれた。その過程でメンバーたちは、金やエゴ、名声を巡って激しく争い、互いに殺し合う寸前までいったこともあった。しかし同エピソードでは、当然のように議長席についたRZAがメンバーたちを前に、過去を振りかえることの意義について力説する。

「クリシュナもこう説いてる」彼はこう話す。「過去を振り返ることは、祈りを捧げることよりも大切だ」

どこまでも内省的なラッパー兼プロデューサー、そしてウータンの頭脳である彼にとって、グループの歴史を振り返ることは苦痛を伴う行為だった。昨年11月に発売25周年を迎えた1stアルバム『燃えよウータン』がすべてを変えたということについては、当時を経験した人々なら誰もが同意するだろう。人生の大半を有名人として生きてきた現在49歳のRZAだが、グループの歴史の多くはカメラのないところで形成されてきたと認める。

「ウータンのやつらは未だに、相手が実はFBIの潜入捜査官なんじゃないかっていう疑念を持って人と接してる」。彼はローリングストーン誌にそう語っている。しかしようやく、彼らはその波乱万丈の過去について語ることができるようになった。

ヒップホップにおけるベテランジャーナリストから映画監督へと転身した監督のサチャ・ジェンキンスは、2015年作『Fresh Dressed』ではファッションに、2018年作『Word Is Bond』ではリリックに焦点を当てつつ、独自の視点でヒップホップの歴史を描いた。「(RZAは)とても率直に語ってくれた」。ジェンキンスはそう話す。「『こういう企画に興味を持ってるやつは山ほどいるんだよな』っていう彼に、俺はこう返した。『ビッグな制作会社やディレクターなら誰でも、それなりのものは作れるだろう。でも俺なら、誰にも真似できないウータンのドキュメンタリーを撮れる』」

「ヒップホップはアメリカが生んだアートフォームであり、そこにはすべてのアメリカ人が共感できる要素がある」。ジェンキンスはそう話す。「しかしニューヨークシティで黒人男性として生まれ育ち、クラックやら警察の暴力やら何やらに揉まれながらヒップホップが台頭していくのを目の当たりにした俺は、その過程をリアリティを持って描くことができる」

「他の人間と違って、彼はヒップホップの歴史を体験している」。RZAはジェンキンスについてそう話す。「ゴーサインを出すまでに3週間ほどかかった。不安はあったけど、彼を信じて全部委ねてみることにしたんだ」

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE