ディズニー実写版『アラジン』映画評、ウィル・スミスの存在が本作最大の特殊効果

ガイ・リッチー監督による実写映画『アラジン』から、メナ・マスードとウィル・スミス(Daniel Smith/Walt Disney Pictures)

6月7日(金)より全国公開されるディズニー実写映画『アラジン』。米ローリングストーン誌の映画評論家ピーター・トラヴァーズによる映画評を掲載ーーガイ・リッチー監督が作り出したファミリー映画、CG技術を駆使したディズニー映画の実写作品である本作は、とにかく驚きに満ちている。

※多少のネタバレを含んでおります。ご注意ください。

アラジンはついに目を覚ましたのか?そのように見える。ガイ・リッチー監督による、1992年のアニメ作品の実写化は、多くの有色人種によって構成されている。このキャスティングが素晴らしい。1992年のアニメ版ではロビン・ウィリアムズが演じた面白おかしなランプの精ジーニーを、今回はウィル・スミスが体現。アラジン役のメナ・マスードはエジプトにルーツを持つ俳優だ。ジャスミンを演じるナオミ・スコットはインド系の女優。そしてジャスミンの付き人であるダリアを演じるナシム・ペドラドはイラン出身だ。さらに今作におけるヴィラン、ジャファー役のマーワン・ケンザリは、チュニジアの血を引く。アラビアンナイトは、褐色の肌を持つ俳優陣によって埋め尽くされるのだろうか?想像は膨らむばかりなのか?

お決まりの表現やステレオタイプな民族表現はあるものの、映画自体は作り手側の懸命さが伝わる、非常に良い作品である。監督のガイ・リッチーはこれまで『ロックンローラ』や『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』と言ったような、ドンパチの多い映画を手がけてきたことで知られているが、今作のような家族向け、子供も安心して見られる作品においては、武器は登場しない。しかし彼はストーリーにキネティシズムを取り入れ、アニメ作品との整合性を生み出そうとした。負け戦かもしれないが、動機は理解できるものだ。

俳優陣もまた、とても良い動きを見せている。『ジャック・ライアン』の演技で高い評価を得たマスードは、活発なアラジンを演じた。彼はアラン・メンケン/ハワード・アッシュマンとティム・ライスの曲を歌いながら、アグラバーの街をアクロバティックに動き回る。彼の歌う「ひと足お先に」は内なるエネルギーを感じさせるが、それはおそらく、ブロードウェイで公開されているミュージカルバージョンでは感じられないものだろう。そしてアラジンには、一つの問題がある:彼は身分の全く違う姫、ジャスミンを慕っているのだ。アニメ版のジャスミンを知っている視聴者は、もしかするとジャスミンに気がつかないかもしれない。彼女はもはや、愛を求めているだけではないのだ:彼女は父であるサルタン(ナヴィド・ネガーバン)に対し、国のために決断をしてほしいと願っている。そして今回、ジャスミンは劇中で新曲「スピーチレス」を披露するが、この曲の歌詞は『ラ・ラ・ランド』でアカデミー歌曲賞を受賞したベンジ・パセクとジャスティン・ポールによるものだ。ジャスミン役のスコットはこの曲を、最大限のレベルまで引き上げていると言えよう。

さて、この正反対の2人がどうやって一緒になるのだろうか?それはもちろん、ジーニーのおかげだ。スミスはまず人間サイズでジーニーを演じ、アラジンがランプを擦ると現れる姿にするために、その後CG技術を駆使した。ジーニーは3つの願いを聞き入れることができるが、願い事を増やすことはできない。まず1つ目の願いとして、アラジンはジャスミンに求婚できるような、王子の身分を求めた。そしてリッチーは、カーニバルのような「アリ王子のお通り」を、鮮やかに仕立て上げる。しかしながらスミスこそが、この映画における最高の特殊効果である。彼は新鮮な王子に自信を与えるが、ロビン・ウィリアムズの再現をしようともしていない。スミス自身の独特さをジーニーの楽曲「フレンド・ライク・ミー」で表現し、彼の持つコミカルな要素と合わせて最上の出来になっている。マスードと彼のシーンは、プロットが重くなってきた際に雰囲気を持ち上げるような作用がある。
 
今回はリッチーと脚本家であるジョン・オーガストがタッグを組みディズニーシリーズを手がけたが、映画は2人のちょうど中間点に落ち着けたようだ。ロマンスの角度も上手く機能しており、特にアラジンとジャスミンが魔法の絨毯に乗り、アカデミー歌曲賞を受賞した「ホール・ニュー・ワールド」を歌う名シーン(筆者はあのCGのカーペットが大好きだ)は素晴らしい。しかしながら、ジーニーとジャスミンのメイドによるラブストーリーは、少し違和感があるかもしれない。そしてジャファーに関しては、ハッピーエンドを阻止させるほどの邪悪さはないと言っていいだろう。

それでも、『アラジン』が当たり障りのない方向や、長期間開催しており、もはや感動も少なくなってきたブロードウェイ・ミュージカルの方向へ走行しようとする度に、リッチーや他の俳優陣は急上昇したり、回転したり、好きに走り回ったりして、私たちの根幹にある興味を満足させてくれた。

私たちは今後も、ディズニー・クラシックの実写映画を必要とするのだろうか?答えは多分、ノーだ。それでも、非常に受け入れやすい作品だと言える。


アラジン
★★★★☆
6月7日(金)全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
https://www.disney.co.jp/movie/aladdin.html
(C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

Translated by Leyna Shibuya

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